TRENDIA CLASSIC

活人形

豊島与志雄

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むかし、インドに、ターコール僧正というえらいお坊さまがいました。むずかしい病気をなおしたり鬼をおいはらったり、ときには、死人をよみがえらしたりするほど、ふしぎな力をそなえていられるという評ばんでした。そしてたいへん慈悲深くて、なんでも貧乏な人たちにめぐんでやり、自分は、弟子の若いお坊さんと二人きりで、大きな、ぼだい樹のそばの小さな家に、つつましく暮していました。

そのターコール僧正が、ある日、庭のぼだい樹のこかげのベンチに腰をおろして、休んでいますと、みすぼらしいなりをした、年とった男がたずねてきました。悲しそうなおどおどしたようすで、僧正様にお祈りをしていただきたいと申すんです。

「お祈りはわたしの仕事だ。してあげましょう」とターコール僧正は答えました。

男はしばらくもじもじしていましたが、顔をふせていました。

「お礼のお金をもっておりませんが、ただでお祈りをしてくださいましょうか」

「お祈りはわたしの仕事だ。お金がなくてもしてあげましょう」を僧正は答えました。

男はしばらくして、またいいました。

「ここではございません。わたくしどもの宿まできてお祈りをしてくださいましょうか」

「お祈りはわたしの仕事だ。行ってあげましょう」と僧正は答えました。

男はしばらくしてまたいいました。

「わたくしのためにではございません。人間のためにではございません。こわれかけた大きな人形が一つございます。そのためにお祈りをしてくださいましょうか」

「お祈りはわたしの仕事だ。その人形のためにしてあげましょう」と僧正は答えました。

男はうれしそうに、眼をかがやかして、僧正の顔をながめていいました。

「ほんとうでございますか」

「お祈りはわたしの仕事だ」と僧正はほほえんで答えました。「一文もお金をもらわないでも、あなたの宿まで行って、そのこわれかけた人形のために、お祈りをしてあげましょう」

大きなぼだい樹のあるターコール僧正の家から、一里ばかりはなれた町のはずれに、きたない宿屋がありました。見すぼらしい年とった男は、そこへ僧正を案内してきました。そしてみちみち、僧正へ自分の身の上を話しました。

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