姦(かしまし)
本文約10,900字 ・ 読了時間 約22分
あらすじ(AIが作成しました)
十年ぶりに東京へ現れた久能志貴子に困惑する女性が、その真意を探るべく銀座で待ち合わせる。女性は着物の品評などを通じて志貴子と張り合うが、はぐらかされ苛立ちを募らせる。その後、男性を交えた場を強引に設定し追い詰めようと試みるが、志貴子は亡き姉の霊が憑依して行動しているという不可解な事実を語り、周囲を翻弄していく。
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いつお帰りになって? ……昨夜? よかったわ、間にあって……ちょいと咲子さん、昨日、大阪から久能志貴子がやってきたの。しっかりしないと、たいへんよ……ええ、ほんとうの話。あなたを担いでみたって、しようがないじゃありませんか。終戦から六年、その前が四年だから、ちょうど十年ぶり……誰だっておどろくわ。どんなことがあったって、東京へなど出てこられる顔はないはずなのに、そこが志貴子の図々しさよ……木津さん? 心配しているのは、そのことなのよ。なにはともかく、大至急、お耳にいれておくほうがいいと思って、それで……それはもう、あなたさまのおためになることでしたら、いかようにも、相勤めまするでござるだけど、お蔭さまで、今日はくたくた……
ええ、朝の十時ごろ、いきなり築地の「山城」から電話をかけてきたものなの。折入っておねがいしたいことがあるから、どこか静かなところで、一時間ほどお話できないだろうかって。すらっとしたものよ……志貴子の追悼会をやったあと、久能徳が本門寺の書院で、いろいろとお助けいただいたご恩にたいしても、生涯、志貴子は東京へ出しません。おやじの私がお約束するって、畳に両手を突いておじぎをしたでしょう。あのいきさつを考えたら、かりに東京へ出てきたって、厚顔しく電話なんかかけてこれる義理はないのよ。だいいち、東京へ出てくること自体、あまりひとをバカにした話でしょう。木津さんに回状をまわして、大真面目な顔で年忌までやった、あたしたちの立場、どうなると思っているのかしら……ええ、そうなのよ。木津さんは、ひっこんでいるからいいようなものの、銀座あたりで、二人がひょっこり逢いでもしたら、あんな大嘘をついた手前、木津さんに合わせる顔ないわ。……
あなたはそうでしょうさ。木津さんを釣っておくためなら、どんなことだってするひとなんだから、バレたら、あやまればいいと思っているんでしょうけど、あたしのほうは、悪かったじゃすまないのよ。そうだろうじゃありませんの。志貴子さん、お亡くなりになったんですってねえって、久能徳のうしろにくっついて、まっさきにお悔みに行ったのは、あたしなんだから罪が深いわ。