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TORENDIA

日本書と日本紀と

本文約7,000字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

日本書紀という書物には「日本紀」と「日本書紀」という二つの呼び名が存在する。本書は、この名称の由来や歴史的背景を考察し、本来の正しい呼称が「日本紀」であることを論じる。また、中国の史書である前漢紀や後漢紀の形式を模した編年体としての「日本紀」の成立過程をたどり、その前段階として存在した「日本書」や「帝紀」との関係性や、当時の宮廷が抱いた国家の正史に対する意識についても詳細に分析を試みる論考である。

折口信夫

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一 紀といふことばの意義

今後、機会のある毎に、釈いて行つて見たいと思ふ、日本書紀と言ふ書物に絡んだ、いろんな疑念の中、第一にほぐしてかゝらねばならぬのは、名義とその用法とである。

一体、此書物の二通りの呼び名「日本紀」・「日本書紀」のどちらが、元からの題号であるか、と言ふ事からして、既に問題であつた。日本紀は、日本書紀の略称ときめられさうな処を、さうもならずにゐたのは訣がある。日本書紀といふ名は新しい書物に出て、古くは却つて日本紀と書いて居る様である。本名「日本書紀」通称「日本紀」と言ふ考への、成り立ち難いのは、此為であつた。或は、後期王朝に入つて「日本紀」といふ名が、正史から更に歴史といふ位に内容を拡げて来たので、其と区別する為に、固有名詞の方には「書」といふ字を挿入したのか、と仮定を据ゑて見たことも、一時はあつた。ともかく、今ある文書で「日本書紀」の名を記した一番古い物は、弘仁私記の序文と言ふ事になつてゐる。

てつとり早く結着を申すと、私の考へでは「日本書紀」は誤りである。「日本紀」が正しい称へだ、と言ふ事におちるのである。

支那の史乗の内で、固定しかけて居て、立ち消えした体の内に「紀」と言ふ型があつたと思ふ。「前漢紀」・「後漢紀」或は「通鑑外紀」などが、此部類である。かうした「紀」と言ふ、史書に通じた特質は、内容に於て、正史の「本紀」の姿に一貫し、体に於ては、編年を採つてゐる外に、ある本書を予期させる「伝」の姿を持つたものである事だ。「春秋」三氏の伝は、本書の価値からして、伝書其物まで経書の取り扱ひを受ける事となつた。其後、同じ意味で出来た書物の内に、伝を称せずして紀と名乗る一団が出来たのである。

政道の軌範としての史書の意味を、重んじる儒学の態度の、輸入せられたのは古い事である。紀伝道が立てられ、史書講筵が天子並びに高級官吏の間に続けられる様になる機運は既に、奈良朝に熟して居る。さうした講筵の対象になつてゐるものは、所謂三史であつた。「日本紀」の出来た目的の一部も、其辺にある様な気がする。

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