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TORENDIA

心の仕事を

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

リルケの『ドゥイノの悲歌』を題材に、悲しみを通じて本物の生に至る道や、人生において重要な要素である死、悲しみ、子供や動物の無心について考察を綴る。ロダンの影響を受けた以前の「目の仕事」に対し、詩人が自身の体験を通じて「心の仕事」として新たな世界を築く過程を論じる。また、彫刻的な美しさに留まらず、人間の悲しみの本質に導かれるべきだと説き、詩におけるイメージの役割やその深奥な意味を解き明かす。

堀辰雄

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🎧 心の仕事を / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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御手紙拜見しました。

ドゥイノの悲歌に就いての御質問の事、只今生憎手許に充分本がありませんので、御滿足の行くやうには御返事が出來かねますが、――第十の悲歌のあの冒頭の部分は、此の最後の悲歌の主題として考へられる、悲しみを過ぎつて本當の生に到達する「道」の探究へと我々を導いてゆくために、先づ、我々、地上の愛に充ちた者らにおける悲しみの位置といつたものをはつきりとさせてゐるのであります。

本當の人生への道は悲しみを過ぎりながら通つてゐる。その悲しみを浪費したり、その果てるのを欲したりしてはならない。そしてそれを大事にしなければならない。何故なら、すべてのものが死んで、我々が無限の生の新しい季節にはひつてゆくとき、我々に殘されるのはその悲しみだけだからである。現世ばかりでなく、さういつた死後の我々の永遠の住家としてまで、リルケは、人間の悲しみといふものを大事にしてゐる。

死と、悲しみと、子供や動物の無心と、――この三つのものをリルケが悲歌全篇にわたつて人生の重要な要素と考へてゐることは誰にも分かる位、屡詩の前面に持ち出されて來てをりますが、さういつた要素をメタフィジカルに書かずに、常に詩人の體驗したものをもつてきて書く。それが此「悲歌」では、――

Werk des Gesichts ist getan,

tun nun Herzwerk.

目の仕事は仕遂げた、

これからは心の仕事をしよう……

と或詩で既にリルケも書いてをりますやうに、ロダンの影響の下に製作した前の「新詩集」のやうな「目の仕事」ではなくなつて來た、そして「心の仕事」として其處に新しい世界を創めてゐる、――そこで此詩中の image が大へん曖昧模糊としたものになつてきてゐるやうです。ですからその數行が君にロダンのダナイデの像の美しさを喚び起したなら、それはそれなりに味つてゐて好いのでありませう。只その形象がさういふ彫刻的な美しさを君に喚び起しただけに止つてゐてはならない。それはもつと君を人間の悲しみといふものの本質に導いて行かなければならない。あくまでもそこには停滯があつてはならないと思ふのです。

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