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TORENDIA

窓

本文約3,700字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

秋の午後、語り手は沼に囲まれたO夫人の別荘を訪れる。恩師であるA氏の遺作展覧会のため、夫人が秘蔵する氏の難解な晩年の作品『窓』を借り受けるのが目的であった。目が見えないはずの夫人は、語り手を驚かせるほど自然に振る舞い、A氏に関する質問を重ねる。やがて対面した『窓』に、以前はなかったはずのA氏の顔が浮かび上がっていることに気づいた語り手は、数年を経て起きた絵の不可解な変化と、夫人と恩師の間の秘められた関係を推測していく。

堀辰雄

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🎧 窓 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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或る秋の午後、私は、小さな沼がそれを町から完全に隔離してゐる、O夫人の別莊を訪れたのであつた。

その別莊に達するには、沼のまはりを迂囘してゐる一本の小徑によるほかはないので、その建物が沼に落してゐるその影とともに、たえず私の目の先にありながら、私はなかなかそれに達することが出來なかつた。私が歩きながら何時のまにか夢見心地になつてゐたのは、しかしそのせゐばかりではなく、見棄てられたやうな別莊それ自身の風變りな外見にもよるらしかつた。といふのは、その灰色の小さな建物は、どこからどこまで一面に蔦がからんでゐて、その繁茂の状態から推すと、この家の窓の鎧扉は最近になつて一度も開かれたことがないやうに見えたからである。私は、さういふ家のなかに、數年前からたつた一人きりで、不幸な眼疾を養つてゐるといはれる、美しい未亡人のことを、いくぶん浪漫的に、想像せずにはゐられなかつた。

さうして私は、私の突然の訪問と、私の携へてきた用件とが、さういふ夫人の靜かな生活をかき亂すだらうことを恐れたのだつた。私の用件といふのは、――最近、私の恩師であるA氏の遺作展覽會が催されるので、夫人の所有にかかはるところの氏の晩年の作品の一つを是非とも出品して貰はうがためであつた。

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