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TORENDIA

五色蟹

本文約11,500字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

伊豆の温泉宿に滞在した遠泉、本多、田宮の三人は、海岸で拾った美しい五色蟹を宿へ持ち帰る。蟹は隣室の女子学生四人組の部屋へと迷い込み、それをきっかけに両グループは親しくなる。しかし、滞在中に美しい女子学生の一人が不審な死を遂げ、警察が捜査に乗り出す。奇妙な蟹の存在と事件の謎を軸に、遠泉は同行した田宮の不可解な様子や女子学生たちとの複雑な関係を疑い、真相を追い求め始める。

岡本綺堂

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一

わたしはさきに「山椒の魚」という短い探偵物語を紹介した。すると、読者の一人だというT君から手紙をよこして、自分もかつて旅行中にそれにやや似た事件に遭遇した経験をもっているから、何かの御参考までにその事実をありのままに御報告するといって、原稿紙約六十枚にわたる長い記事を送ってくれた。

T君の手紙には又こんなことが書き添えてあった。――わたしはまだ一度もあなたにお目にかかったことがありません。したがって何かよい加減のでたらめを書いて来たのではないかという御疑念があるかも知れません。この記事に何のいつわりもないことはわたしが、誓って保証します。わたしは唯あなたに対して、現在の世の中にもこんな奇怪な事実があるということを御報告すればよろしいのです。万一それを発表なさるようでしたら、どうかその場所の名や、関係者の名だけは、然るべき変名をお用いくださるようにお願い申して置きます。

あながち材料に窮しているためでもないが、この不思議な物語をわたしひとりの懐中にあたためて置くのに堪えられなくなって、わたしはその原稿に多少の添削を加えて、すぐに世の読者の前に発表することにした。但しT君の注文にしたがって、関係者の姓名だけは特に書き改めたことをはじめに断わっておく。場所は単に伊豆地方としておいた。伊豆の国には伊東、修善寺、熱海、伊豆山をはじめとして、名高い温泉場がたくさんあるから、そのうちの何処かであろうとよろしく御想像を願いたい。T君の名も仮りに遠泉君として置く。

遠泉君は八月中旬のある夜、伊豆の温泉場の××館に泊まった。彼には二人の連れがあった。いずれも学校を出てまだ間もない青年の会社員で、一人は本多、もう一人は田宮、三人のうちでは田宮が最も若い二十四歳であった。

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