本文へ移動
TORENDIA

蟹満寺縁起

本文約10,000字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

山城国の蓮池のほとりで、ある娘が人身御供として大蛇にさらわれようとする。その場にいた青年が救おうとするが力及ばず、危機的状況に陥る。そこへ池に棲む一匹の蟹が現れ、鋭い長刀を振るって大蛇を討ち果たし、娘を救い出す。強さこそが弱者を守る唯一の道であると説く蟹は、娘の恩返しによってその功績を後世に残されることとなり、人々に強い意志を持つことの重要性を伝えて去っていく。

岡本綺堂

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 12

登場人物

漆間の翁

嫗

娘

里の青年 (坂東三吉)

蟹

蛇

蛙

里のわらべなど

[#改ページ]

(一)

時代は昔、時候は夏、場所は山城国。久世郡のさびしき村里。舞台の後方はすべて蓮池にて、花もひらき、葉も重なれり。池のほとりには柳の立木あり。

(男女の童三は唄い連れていず。)

唄蛙釣ろうか、蟹釣ろか、蓮をかぶった蛙を釣ろか、はさみを持った蟹釣ろか。

(三人は池にむかって手をたたきながら、一と調子はりあげて又唄う。)

唄蛙釣ろか、蟹釣ろか。水にとび込む蛙を釣ろか、穴にかくれた蟹釣ろか。

(わらべ等は唄い終りて、更にはじめの唄をくり返しつつあゆみ去る。水の音しずかにきこゆ。蓮の葉をかき分けて、小さき蛙は頭に大いなる蓮の葉をかぶりておどりいず。)

蛙 ええ、さうぞうしい餓鬼共だ。子供というものはなぜああ騒ぎたいのだろう。いや、そう云えば俺だって子供だ。陰ってあたたかい静かな晩などは、なにか一つ唄ってみたいような気がして、精一ぱいの大きな声を出して、あたり構わずにぎゃあぎゃあ呶鳴ることもあるから、あんまり人間の悪口も云えまいよ。いたずらっ児ももう行ってしまったようだ。おれも一番陽気に唄ってやろうか。

(蛙はあたりを見まわして、唄いながら踊る。)

蛙 人を釣ろうか、こどもを釣ろか。死んだ振して子供を釣ろか。……ああ、面白い、面白い。

(蛙は蓮の葉を地にしきて坐す。柳のかげより大いなる赤き蟹いず。蟹は武装して、鋏のごとき刃をつけたる長刀を携えたり。)

蛙 やあ、蟹の叔父さんだね。

蟹 人間の子供もそうぞうしいが、おまえも随分そうぞうしいな。あけても暮れても騒いでいる。蛙の子は蛙とはよく云ったものだ。おれ達を見習ってちっと黙っていろ。

蛙 蟹の叔父さんのように黙っていると、おらあ病気になってしまうよ。こうして時々に陸へあがって来て、唄ったり踊ったりするのが何よりの楽しみなんだ。

蟹 陸には怖いものがいるのを知らないか。

蛙 人間の子供なんか、怖いものか。あいつ等がつかまえに来れば、おらあすぐに水に飛び込んでしまうから大丈夫だ。

蟹 おまえ達には人間よりももっと怖いものがいるぞ。

蛙 なんだろう。(考える。)むむ。蛇か。

岡本綺堂の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本