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TORENDIA

鴛鴦鏡

本文約11,600字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

東北の小さな町で警察官として勤務する「わたし」は、ある夜、弁天の祠の池で俳句仲間の青年冬坡を見かける。その翌日、足に障害を持つ料理屋の娘お照が池で遺体となって発見される。調査を進めると、冬坡を巡る芸者染吉との愛憎と、池から発見された古代中国の「鴛鴦鏡」をめぐる因縁が浮かび上がる。二人の女性を死へと導いた不思議な鏡の由来と、それを取り巻く人々の顛末を描く怪奇探偵談である。

岡本綺堂

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一

Y君は語る。

これは明治の末年、わたしが東北のある小さい町の警察署に勤めていた時の出来事と御承知ください。一体それは探偵談というべきものか、怪談というべきものか、自分にもよく判らない。こんにちの流行詞でいえば、あるいは怪奇探偵談とでもいうべき部類のものであるかも知れない。

地方には今も往々見ることであるが、ここらも暦が新旧ともに行なわれていて、盆や正月の場合にも町方では新暦による、在方では旧暦によるという風習になっているので、今この事件の起った正月の下旬も、在方では旧正月を眼の前に控えている忙がしい時であった。例年に比べると雪の少ない年ではあったが、それでも地面が白く凍っていることは言うまでもない。

夜の十一時頃に、わたし達は町と村との境にある弁天の祠のそばを通った。当夜の非番で、村の或る家の俳句会に出席した帰り路である。連れの人々には途中で別れてしまって、町の方角へむかって帰って来るのは、町の呉服屋の息子で俳号を野童という青年と私との二人ぎりであった。月はないが星の明るい夜で、土地に馴れている私たちにも、夜ふけの寒い空気はかなりに鋭く感じられた。今夜の撰句の噂なども仕尽くして、ふたりは黙って俯向いて歩いていると、野童は突然にわたしの外套の袖をひいた。

「矢田さん。」

「え。」

「あすこに何かいるようですね。」

わたしは教えられた方角を透かして視ると、そこには小さい弁天の祠が暗いなかに立っていた。むかしは祠のほとりに湖水のような大きい池があったと言い伝えられていたが、その池もいつの代にかだんだんに埋められて、今は二三百坪になってしまったが、それでも相当に深いという噂であった。狭い境内には杉や椿の古木もあるが、そのなかで最も眼に立つのは池の岸に垂れている二本の柳の大樹で、この柳の青い蔭があるために、春から秋にかけては弁天の祠のありかが遠方から明らかに望み見られた。その柳も今は痩せている。その下に何物かがひそんでいるらしいのである。

「乞食かな。」と、わたしは言った。

「焚火をして火事でも出されると困りますね。」と、野童は言った。

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