TORENDIA
死の接吻
小酒井不木
🎧 まだ音声版はありません
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
1 / 17
一
その年の暑さは格別であった。ある者は六十年来の暑さだといい、ある者は六百年来の暑さだと言った。でも、誰も六万年来の暑さだとは言わなかった。中央気象台の報告によると、ある日の最高温度は華氏百二十度であった。摂氏でなくて幸福である。「中央気象台の天気予報は決して信用出来ぬが、寒暖計の度数ぐらいは信用してもよいだろう」と、信天翁の生殖器を研究して居る貧乏な某大学教授が皮肉を言ったという事である。
東京市民は、耳かくしの女もくるめて、だいぶ閉口したらしかった。熱射病に罹って死ぬものが日に三十人を越した。一日に四十人ぐらい人口が減じたとて大日本帝国はびくともせぬが、人々は頗る気味を悪がった。何しろ、雨が少しも降らなかったので、水道が一番先に小咳をしかけた。日本人は一時的の設備しかしない流儀であって、こういう例外な暑い時節を考慮のうちに入れないで水道が設計されたのであるから、それは当然のことであった。そこで水が非常に貴重なものとなった。それは然し、某大新聞が生水宣伝をしたためばかりではなかった。氷の値が鰻上りに上った。N製氷会社の社長は、喜びのあまり脳溢血を起して即死した。然し製氷会社社長が死んだぐらいで、暑さは減じなかった。
小酒井不木の他の作品
TORENDIA
恋愛曲線
小酒井不木
恋愛曲線
小酒井不木
TORENDIA
闘争
小酒井不木
闘争
小酒井不木
TORENDIA
毒と迷信
小酒井不木
毒と迷信
小酒井不木
TORENDIA
深夜の電話
小酒井不木
深夜の電話
小酒井不木
TORENDIA
紅色ダイヤ
小酒井不木
紅色ダイヤ
小酒井不木
TORENDIA
暗夜の格闘
小酒井不木
暗夜の格闘
小酒井不木
TORENDIA
髭の謎
小酒井不木
髭の謎
小酒井不木
TORENDIA
外務大臣の死
小酒井不木
外務大臣の死
小酒井不木
TORENDIA
誤った鑑定
小酒井不木
誤った鑑定
小酒井不木
TORENDIA
安死術
小酒井不木
安死術
小酒井不木
TORENDIA
恐ろしき贈物
小酒井不木
恐ろしき贈物
小酒井不木
TORENDIA
稀有の犯罪
小酒井不木
稀有の犯罪
小酒井不木