瓜の涙
本文約10,000字 ・ 読了時間 約21分
あらすじ(AIが作成しました)
炎天の並木道、学生の松野謹三は学資に窮し空腹を抱えながら人待石に憩う。伝説の巨石と清らかな湧水、そしてそこで真桑瓜や西瓜を売る茶店が並ぶ中、謹三は古跡を敬いながら静かな時間を過ごす。かつて父を亡くし困窮する彼は、偶然目にした娘の姿に心を揺さぶられる。突如として巨大な煙の柱が空を覆い、人々が騒然とする中で火事と思われた現象は竜巻へと一変する。恐怖に震える娘の手を謹三がしっかりと握りしめる中で、物語は展開する。
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一
年紀は少いのに、よっぽど好きだと見えて、さもおいしそうに煙草を喫みつつ、……しかし烈しい暑さに弱って、身も疲れた様子で、炎天の並木の下に憩んでいる学生がある。
まだ二十歳そこらであろう、久留米絣の、紺の濃く綺麗な処は初々しい。けれども、着がえのなさか、幾度も水を潜ったらしく、肘、背筋、折りかがみのあたりは、さらぬだに、あまり健康そうにはないのが、薄痩せて見えるまで、その処々色が褪せて禿げている。――茶の唐縮緬の帯、それよりも煙草に相応わないのは、東京のなにがし工業学校の金色の徽章のついた制帽で、巻莨ならまだしも、喫んでいるのが刻煙草である。
場所は、言った通り、城下から海岸の港へ通る二里余りの並木の途中、ちょうど真中処に、昔から伝説を持った大な一面の石がある――義経記に、……
加賀国富樫と言う所も近くなり、富樫の介と申すは当国の大名なり、鎌倉殿より仰は蒙らねども、内々用心して判官殿を待奉るとぞ聞えける。武蔵坊申しけるは、君はこれより宮の越へ渡らせおわしませ――
とある……金石の港で、すなわち、旧の名宮の越である。
真偽のほどは知らないが、おなじ城下を東へ寄った隣国へ越る山の尾根の談義所村というのに、富樫があとを追って、つくり山伏の一行に杯を勧めた時、武蔵坊が鳴るは滝の水、日は照れども絶えずと、謡ったと伝うる(鳴は滝)小さな滝の名所があるのに対して、これを義経の人待石と称うるのである。行歩健かに先立って来たのが、あるき悩んだ久我どのの姫君――北の方を、乳母の十郎権の頭が扶け参らせ、後れて来るのを、判官がこの石に憩って待合わせたというのである。目覚しい石である。夏草の茂った中に、高さはただ草を抽いて二三尺ばかりだけれども、広さおよそ畳を数えて十五畳はあろう、深い割目が地の下に徹って、もう一つ八畳ばかりなのと二枚ある。以前はこれが一面の目を驚かすものだったが、何の年かの大地震に、坤軸を覆して、左右へ裂けたのだそうである。
またこの石を、城下のものは一口に呼んで巨石とも言う。