草道
本文約4,200字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
山寺への宿泊を諦めた男四人と案内人の一行は、馬賊への不安を抱えながら、草深く茂る谷あいの路を急ぐ。目的地へ向かうなか、道中で出会った若い中国人母子を道連れにしようと試みるが、一行の言動により母子は彼らを逆に恐れ、険悪な空気となる。異国の山中で不信と不安を抱えつつ、一行は夕暮れの迫る草道をさらに進んでいく。
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一
「とてもあんなところには泊れやしないね、あんなところに泊らうもんなら何をされるかわかりやしない」かうBが言つたのは、その深い草道を半里ほどこつちに来てからであつた。かれ等は伴れて来た支那人の案内者をまぜて五人、今夜はその山の寺に泊るつもりでやつて行つたのであつたけれども、そのあたりの光景のわるく無気味なのと、そこらに馬賊が出没していつそれが襲つて来ないともかぎらないといふのに不安になつて、もう午後四時過ぎの日影が山の端に低くなつてゐるのにも拘はらず、あわてゝそこから飛び出して来たのであつた。彼等は草やしのやかやの一面に茂つてゐる谷合の路――路といつてもどうかすればすぐ見失つてしまひさうな細い路を走るやうにして一生懸命にわけて行つた。
「馬賊ツて、別にやつて来るんぢやなくつて、あいつ等がすぐそれになるのかも知れないからな……こんなところにとても泊れないよ。こんな山の中では、殺されたつて、永久にわかりやせんからな。第一日本の官憲の力だつて、あそこまでは入つて行けないからね……」
「本当だとも――」
「そいつだつて、何だかわかりやしない。彼奴等の廻しものかも知れない」Hはかういつて、少し前に歩いて行く支那人の案内者をあごで指した。
皆は一層不安になつた。たれの頭にも、その山寺の一室のさまが気味わるくうつつた。肥つた大きな男、わるこすさうな眼つきをした坊主、床の上にあぐらをかいて坐つてゐる統領らしいおやぢ、どう考へて見ても水滸伝の中にある光景としかかれ等には思はれなかつた。それはかれ等とて毒の入つたまん頭やしびれ薬の雑ぜられてある酒なぞがそこにあらうとは思はなかつたけれども、今朝から持つてゐる不安――その山の中ではいつ馬賊に出会すかわからないといつたやうな不安が、絶えずかれ等をおびやかして、山越しに、否、むしろ岩石づたひに辛うじてそこに行着いた時には、どうして好奇にこんな山の中に入つて来たかと後悔されたのであつた。皆はそこで互に眼を見合せてため息をついた。つかれてはゐたけれどもどうしてもそこには泊る気にはなれなかつたのである。
二