談片
本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
避暑を目的とした旅行について、著者が日本各地の山岳地や海岸線を挙げながら、それぞれの地形や景色の特徴を綴る。軽井沢や日光といった定番の地から、野尻湖や尾瀬沼、伊豆、さらには北海道や樺太に至るまで、涼を求めて滞在するのに適した場所を幅広く紹介する。特に隠岐の島前の美しい景色や烏賊釣舟の灯について詳しく描写し、都会の喧騒を離れてゆったりと過ごす避暑の楽しみ方を提示する随筆である。
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さうですね、避暑についての話と言つても、別に面白いこともありませんね。まア暑さを避けるのなら、何と言つても、標高の大きい山岳地方に行くに限ると思ひますね。千米突以上の山の上にゐれば、いつだつて暑いなんていふ気はしませんからね。
しかし、余り世離れては、避暑といふ目的に副はなくなるかも知れませんね。矢張、都会の人達が大勢行くやうなところでなくては面白くないんでせうからね。涼しくさへあれば好いといふんではないでせうからね。軽井沢や日光あたりが普通に持て囃される訳ですね。
しかし、段々新しい避暑地を開くことは必要だと思ひますね。今では、あの信越の境にある野尻湖なども非常に好いところになつたツて言ふぢやありませんか。何しろ、あそこは好い高原ですからね。
日光の湯本の奥から菅沼、笈沼を経て、上州の尾瀬沼に行く間なども、夏は涼しいところだと思ひますね。あそこなども今に屹度開けるだらうと思ひます。上越線の汽車が出来た暁には、決して今までのやうな少数の専門家にばかり占領されてはゐないだらうと思ひます。あそこなら蚊もゐないし、暑さも八十度以上にはのぼらないし、渓流も、湖水も、温泉もすべて揃つてゐますからね。
上州の吾妻の渓谷から草津を経て、白根、万座、更に渋峠を越して信州に出る間も段々避暑地として目をつけられて来てゐるやうです。浅間の裏のひろい高原にも此頃では大分別荘らしいものが出来たといふ話ですが、あそこは少し樹木が乏しくはありませんか、それから八ヶ岳の此方の松原湖附近も、此頃では大分人の口にのぼるやうになりましたね。あそこも静かな涼しい好いところですね。あれから本沢温泉に行つて、八ヶ岳の向うの諏訪の山裏に行くのも面白いですね。富士見高原は設備はまだ大して好いとはいへないけれども、あそこも夏知らずです。色の濃い美しい桔梗の花が到るところに咲いてゐます。
日光火山群の前衛を成してゐる山の中にも避暑地に好いところがあります。古峰ヶ原あたりもそのひとつです。那須野の黒羽の向うにある雲巌寺なども世の塵の至らない別天地だと思ひます。