TRENDIA CLASSIC

妖怪学

井上円了

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序言

妖怪学は応用心理学の一部分として講述するものにして、これに「学」の字を付するも、決して一科完成せる学を義とするにあらず。ただ、妖怪の事実を収集して、これに心理学上の説明を与えんことを試むるに過ぎず。すなわち、心理学の学説を実際に応用して事実を説明し、もって心理考究の一助となすのみ。かくのごとく、妖怪の事実を考究説明して他日に至れば、あるいは一科独立の学となるも知るべからず。ゆえに、これを講述するは、哲学ならびに心理学研究に志ある者に、裨益するところあるは明らかなり。これ、余が妖怪学の講義を始むるゆえんなり。

しかりしこうして、余、いまだ妖怪の事実を究め尽くしたるにあらず、今日なお事実捜索中なれば、各事実について、いちいち説明を与うることあたわず。ただ、余が従来研究中、二、三の事実につき説明を与えしもの、あるいは雑誌、あるいは新聞、あるいは諸小冊子中に参見せるあり。今これを集録し、その部類を分かち、さらにその後研究したる事実を増補し、左に「妖怪学講義」として掲載することとなれり。読者、よろしく心理学講義の一部分とみなすべし。

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第一章 総論

今、妖怪学を講述するに当たり、まずその意義を略解せざるべからず。余のいわゆる妖怪とは、いたって広き意味を有し、一切、妖怪不思議に属するものを総称するなり。およそ宇宙間の諸象の中に洋の東西を問わば、世の古今を論ぜず、普通の道理にて説明すべからず、一般の規則にて解釈すべからざるものあり。これを妖怪といい、あるいは不思議と称す。その種類、民間に存するものいくたあるを知らずといえども、これを大別すれば左の二種となる。

┌物理的妖怪

妖怪┤

└心理的妖怪

物理的妖怪とは、有形的物質の変化作用より生ずるものにして、心理的妖怪とは、無形的精神の変化作用より生ずるものをいう。

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