TRENDIA CLASSIC

おばけの正体

井上円了

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緒言

明治三十一年のむかし、『妖怪百談』を著し、つぎにその「続編」を作りしが、望外にも世間より歓迎せられ、再三再四、版を重ぬるに至りたるも、数年前に残本全く尽き、久しく購読を謝絶しきたれり。その後さらに再版せんと思いしも、本書の内容が古人の書を引き、古代の話を伝えたるもの多ければ、そのまま再版するもおもしろからずと考え、絶版のまま今日に至れり。

しかるに、この最近二十年間、全国周遊中、各所において妖怪の実験談を直接に聞知せるもの、または研究会員より妖怪の新事実を報告せるもの、または地方の有志者より新聞雑報の切り抜きを寄送せるもの、および自ら実地につき探知せるもの等、数百項の多きに達したれば、これを収集選択し、また旧著中、明治維新後に起こりし妖怪事件十余項を抜粋し、合わせて百三十項を得、新たに『おばけの正体』の書名の下に上梓するに至る。その期するところは、家庭および小学にありて、妖怪に迷える児童に読ましめんとするにあれば、文章は言文一致を用い、事項は児童の了解し得る程度を計り、平易簡明を主とせり。つまり、家庭の御伽話に資せんとするの微意なり。読者、願わくはその意を了せられんことを。

妖怪と迷信とは密接の関係を有し、ほとんど妖怪の八、九分どおりは、迷信より起こると断定して可なるほどなり。ゆえに、本書中に迷信を併記せるも、そのほかになお迷信に関する事項はすこぶる多ければ、他日、さらに「迷信集」を編述する心算なり。

また、今日の学理をもって解説し難き、いわゆる真の不思議と称すべき事項も夥多あれば、他日、別にこれを集成して「真怪論」を発行する予定なり。そのこともあわせてここに予告す。

大正三年六月演述者自ら記す [#改丁]

おばけの正体

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