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TORENDIA

元八まん

本文約4,000字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

深川から砂町へと漫歩する永井荷風は、偶然、枯蘆の中に佇む荒廃した元八幡宮の古祠を見出す。放棄されたような寂寥とした風景と、そこで目にした謎めいた女の姿に深い印象を抱く。本作は、急速に失われゆく辺鄙な地の古き趣と、変わりゆく世相に対する追憶を綴る。後に祠が建て替えられ往時の風情が失われたことを受け、著者が最初の鮮烈な記憶を留めるべく記した一編である。

永井荷風

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偶然のよろこびは期待した喜びにまさることは、わたくしばかりではなく誰も皆そうであろう。

わたくしが砂町の南端に残っている元八幡宮の古祠を枯蘆のなかにたずね当てたのは全く偶然であった。始めからこれを尋ねようと思立って杖を曳いたのではない。漫歩の途次、思いかけずその処に行き当ったので、不意のよろこびと、突然の印象とは思立って尋ねたよりも遥に深刻であった。しかもそれは冬の日の暮れかかった時で、目に入るものは蒼茫たる暮烟につつまれて判然としていなかったのも、印象の深かった所以であろう。

或日わたくしは洲崎から木場を歩みつくして、十間川にかかった新しい橋をわたった。橋の欄には豊砂橋としてあった。橋向には広漠たる空地がひろがっていて、セメントのまだ生々しい一条の新開道路が、真直に走っていたが、行手には雲の影より外に目に入るものはない。わたくしはその日地図を持って来なかったので、この新道路はどこへ出るものやら更に見当がつかなかったのであるが、しかしその果はいずれ放水路の堤に行き当っているにちがいない。堤に出さえすれば位置も方角も自然にわかるはずだと考え、案内知らぬ道だけにかえって興味を覚え、目当もなく歩いて行くことにしたのである。

道路は市中の昭和道路などよりも一層ひろいように思われ、両側には歩道が設けられていたが、ところどころ会社らしいセメント造の建物と亜鉛板で囲った小工場が散在しているばかりで、人家もなく、人通りもない。道の左右にひろがっている空地は道路よりも地盤が低いので、歩いて行く中、突然横から吹きつける風に帽子を取られそうな時などは、道を行くのではなく、長い橋をわたっているような気がした。

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