TRENDIA CLASSIC

松風の音

和辻哲郎

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東京の郊外で夏を送っていると、時々松風の音をなつかしく思い起こすことがある。近所にも松の木がないわけではないが、しかし皆小さい庭木で、松籟の爽やかな響きを伝えるような亭々たる大樹は、まずないと言ってよい。それに代わるものは欅の大樹で、戦争以来大分伐り倒されたが、それでもまだ半分ぐらいは残っている。この欅が、少し風のある日には、高い梢の方で一種独特の響きを立てる。しかしそれは松風の音とは大分違う。それをどう言い現わしたらいいか、ちょっと困るが、実際に響きそのものが相当に違っているばかりでなく、それを聞いたときに湧然と起こってくる気分、それに伴う連想などが、全部違っているのである。

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