TRENDIA CLASSIC

蝸牛の角

和辻哲郎

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(一) 芸術の検閲

(大正十一年十一月)  ロダンの「接吻」が公開を禁止されたとき、大分いろいろな議論が起こった。がその議論の多くは、検閲官を芸術の評価者ででもあるように考えている点で、根本に見当違いがあったと思う。

検閲官は芸術の解らない人であっても差支えない。彼の職務は或る作品がいかなる芸術的価値を持つかを定めることではなく、ただそれが公開される場合に公衆に対していかなる影響を及ぼすかを精確に判定し、その影響が社会の秩序を紊乱し善良な風俗を壊乱するようなものであった場合に、その公開を禁止することである。いかにすぐれた作品でも、もし実際に右のような影響を公衆に及ぼすとすれば、彼は当然その作品の公開を禁止してよい。彼に対してその作品の芸術的価値を説いて聞かせることはなんの意味をもなさない。たとい彼がその作品の芸術的価値を充分理解し得るようになったところで、公衆に対する作品の影響が依然として同一である限りは、彼はその禁止を解くことができない。

そこで中心の問題は、公衆に対する作品の影響が、果たして精確に判定せられているか否かの問題である。

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