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TORENDIA

赤とピンクの世界

本文約3,500字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

裕福なインテリ層が住む町で、六十四五歳の未亡人が一人で平穏に暮らしていた。しかし、ある日突然姿を消し、のちに両国の井戸で水死体として発見される。身内は思い当たる理由もなく、近所の人々は一人暮らしの孤独による厭世的な決断ではないかと噂する。本作はこの事件を端緒に、著者が貧困と幸福の在り方を考察し、自らのささやかな生活と重ね合わせながら、生きることの意味や死への思索を綴る随筆である。

片山廣子

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🎧 赤とピンクの世界 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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農村が町となり、ながめが好く空気もきれいなので、だんだん新しい家が出来て、住む人も多くなつて来た。町のひらけ始めた時分に出来た十軒ばかりの家は、それぞれ屋根の色がちがひ坪数もちがつてゐるが、どの家もみんなみづみづしい生垣で、庭に椿や海棠やぼけ、また木犀や山茶花なぞ植ゑてあり、門前の道は何時もきれいに掃かれてこの辺一帯は裕福なインテリ層のすまひとすぐわかる。その中の一軒に、六十四五のおばあちやんがたつた一人で暮してゐた。

ずうつと前からここにゐる人で、前にはだんなさんも一しよだつたが、それは三四年前に亡くなり、一人の息子さんは結婚してもつと都心に近いところのアパートに暮してゐるといふ噂だつた。おばあちやんは時々は息子の家に遊びに行つて泊つて来るし、息子夫婦も日曜日にあそびに来ることもあつて、よそ目には愉しい静かな暮しと見え、八百屋や魚屋に買物に出かけるおばあちやんはわかい主婦たちに負けず元気であつた。或る日そのおばあちやんがゐなくなつてしまつた。近所の人たちもはじめ三四日は知らなかつた。となりの家では息子さんの所へ泊りに行つてるのだらう位に思つてゐたが、それきり帰つて来ず、窓も玄関も閉つたまま一週間になつた時、そこへ古いお友達だといふこれも隠居らしい人が訪ねて来て、隣家の奥さんと話をした。ひさしぶりで来たのにと残念がつて、それでは息子さんのアパートへ寄つてみませうと言つて帰つて行つた。その人のおかげでおばあちやんの不在がわかつて、息子さんはすぐ親類や知合の人たちに連絡してみたが、どこにもゐず、このごろ久しく会はないとみんなが言つた。おばあちやんの家はきれいに片づいて、食器は戸棚に、着物はたたんで乱ればこに入れてあり、どこへ出かけると書き残した紙きれもなかつた。やがて警察の手を借りて、親類も昔の出入りの人たちも総動員で東京じう探し廻つた。もしや途中で脳溢血になりどこかの病院にゐるのではないか、もしや急に気が変になつて近県の田舎にでも行つて迷子になつてゐるのではないか、彼等はありとあらゆる推理をはたらかして、別にあてどもなく探してみたが、彼女はどこにもゐなかつた。

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