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TORENDIA

河鱸遡上一考

本文約3,800字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

佐藤垢石による本作は、鱸の河川への遡上習性とその釣法を論じる随筆である。利根川や那珂川を舞台に、水温と遡上の関係、小鱸の分布、餌を追う鱸の生態を詳細に観察し記録する。さらに、著者自身が試みた釣りの経験や仕掛けの工夫を明かし、川蝦を餌とした釣法の可能性を示唆しつつ、河川における新たな鱸釣りの開拓を促している。

佐藤垢石

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🎧 河鱸遡上一考 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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一

鱸は八十八夜過ぎると、河に向うそうである。すると、かなり水温の低い頃から遡河をはじめるものと見える。

五月初旬というと、利根川は雪解水の出盛りである。分流江戸川へこの水が流れ込んで来るのはもちろんであるが当時上流地方に於ける水温は低い時で八度から九度、暖い日で十一度から十二度であるから、下流へ来るに従い次第に温まるにしろ、まだ人間が膝まで入れば、身ぶるいをする位であろう。江戸川口も、銚子口もまだ別れ霜を気遣って、茄子苗を露地へ出すのに、毎日日和ばかりを見て居る頃である。

東京附近で鱸が向う川は、江戸川、利根本流、荒川及び放水路、水戸の那珂川等幾本もないが、そのうち利根の二川は今申した通り、荒川は利根に比較して割合に雪解水が薄く、量も少いからこれは遡上が早いと見るのが至当である。那珂川は、奥山というものを持たない、即ち水源地方の山嶺が概して低いので、雪解水は毎年三月中には出てしまう。遅い年でも四月半ばまでには山が綺麗になってしまう。だから五月初旬には、湊町の川口附近では水温が十六、七度から、日和の暖かい日には二十度近くに昇ると思う。そして五月初旬から引続き土用頃まで、後からも後からも、鱸の群が川口を遡るのであろうが、水戸附近川口から僅かに三里強しか離れない那珂郡国田村附近に於て、七月の二十日過ぎ、どうしても土用に入らなければ鈎に掛らない。どうした訳だろう。餌が適当でないのだろうか、釣法が下手なのだろうか、それとも釣場の選定を誤って居るのだろうか。

荒川は赤羽橋附近で、江戸川では松戸附近で六月に入れば鈎を追うが、利根の本流も土用に入らなければ本当の季節とはいえない。

そうすると、五月初旬から七月中旬過ぎまで三ヶ月近い日柄を、鱸の奴、何処にどうして居るのだろう。水温十二、三度の頃遡上をはじめるが、その頃でも餌を食わないでは居まい。ところが水温が二十四、五度に昇った暑中に入らなければ、人間が提供した餌は食わないというのだから、実にえこじの奴ではある。

鱸釣専門の遊漁家に、「河の水温と鱸釣について」とでもいう研究を、是非やって頂き度いと思う。

二

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