TRENDIA CLASSIC

しっぺい太郎

楠山正雄

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むかし、諸国のお寺を巡礼して歩く六部が、方々めぐりめぐって、美作国へまいりました。だんだん山深く入っていって、ある村の中に入りますと、何かお祝い事があるとみえて、方々でぺんたらこっこ、ぺんたらこっこ、もちをつく音がしていました。

するとその中で一けん、相応にりっぱな構えをした家が、ここだけはきねの音もしず、ひっそりかんと静まりかえっていました。家の中からは、かすかにすすり泣きをする声さえ聞こえてきました。

六部は「はてな。」と首をかしげながら、そのまま通りすぎていきますと、村はずれに一けんの茶店がありました。六部は茶店に休んで、お茶を飲みながら、おばあさんを相手にいろいろの話をしたついでに、

「おばあさん、おばあさん。この村には何かお祭りでもあるのかね。だいぶにぎやかなようじゃあないか。だがその中で一けん、大そう陰気に沈みこんだ家があったが、あれは親類に不幸でもあったのかね。」

と聞きました。するとおばあさんは、お茶盆を手に持ったまま、

「まあ、それはこういうわけでございますよ。あなたは方々の国々をお回りですから、たぶん御存じでしょうが、この村でも年々、それ、あそこにちょっと高い山がございましょう、あの山の上の神さまに、人身御供を上げることになっているのでございます。」

こういって、向こうにこんもり森のしげった山を指さしました。

「ふん、それでなぜお祝いをするのだろう。」

と六部はたずねました。

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