TRENDIA CLASSIC

雪をんな(二)

葛西善藏

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その時からまた、又の七年目がり來ようとしてゐる。私には最早、歸るべき家も妻も子もないのである。さうして私は尚この上に永久に、この寒い雪の多い北國の島國を、當もなく涯から涯へと彷徨ひ歩かねばならぬのであつた。……

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その最初の結婚とは二十年經つてゐる。前に引いた文章にもあるやうに、この前の「雪をんな」は十九で結婚しての七年目だから二十七の歳だつたらしい。その時分から私の生活が始まつたと云ふものであらうか。

それからの足掛三年間、妻子を捨てての、寒い雪の多い島國の、放浪と云ふことを想像してもらひたい。

私は前の「雪をんな」にも云つてゐるやうにどれほど妻や子の許に歸りたかつたでせう。私はまだしも「雪をんな」の重い子を抱いて吹雪の中に凍え死ぬことを希つたが、それすら許されなかつたのである。宿命のなき赤き鳥よ! 私の爲に歌つてほしい、祈つてほしい――さう思つたことは幾度びでせう。――義人の果は生命の樹なり――私は二十年來この信仰だけは捨てずに、この寒い北の島國を彷徨しつたのである。

そんなら私は、義人ではないのか?

だが、二十年經つてしまつた。

私には、最早歸るべき妻も子もないのである。

雪國のことで、私は幾度かさうした凍死にの經驗を聞いて、雪をんな的な感じにうたれたことがある。私の行つてゐた島國では度び度びさうした凍死者を見た。その中には私の尊敬してゐる老僧光淨さんの死にすら接した。醉ふと必ず『莫迦! 莫迦』さう怒號し歩いた光淨さんも、やはり「雪をんな」の爲に殪れたのである。

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