TRENDIA CLASSIC
雪をんな(二)
葛西善藏
1 / 5
――
その時からまた、又の七年目がり來ようとしてゐる。私には最早、歸るべき家も妻も子もないのである。さうして私は尚この上に永久に、この寒い雪の多い北國の島國を、當もなく涯から涯へと彷徨ひ歩かねばならぬのであつた。……
――
その最初の結婚とは二十年經つてゐる。前に引いた文章にもあるやうに、この前の「雪をんな」は十九で結婚しての七年目だから二十七の歳だつたらしい。その時分から私の生活が始まつたと云ふものであらうか。
それからの足掛三年間、妻子を捨てての、寒い雪の多い島國の、放浪と云ふことを想像してもらひたい。
私は前の「雪をんな」にも云つてゐるやうにどれほど妻や子の許に歸りたかつたでせう。私はまだしも「雪をんな」の重い子を抱いて吹雪の中に凍え死ぬことを希つたが、それすら許されなかつたのである。宿命のなき赤き鳥よ! 私の爲に歌つてほしい、祈つてほしい――さう思つたことは幾度びでせう。――義人の果は生命の樹なり――私は二十年來この信仰だけは捨てずに、この寒い北の島國を彷徨しつたのである。
そんなら私は、義人ではないのか?
だが、二十年經つてしまつた。
私には、最早歸るべき妻も子もないのである。
雪國のことで、私は幾度かさうした凍死にの經驗を聞いて、雪をんな的な感じにうたれたことがある。私の行つてゐた島國では度び度びさうした凍死者を見た。その中には私の尊敬してゐる老僧光淨さんの死にすら接した。醉ふと必ず『莫迦! 莫迦』さう怒號し歩いた光淨さんも、やはり「雪をんな」の爲に殪れたのである。
葛西善藏の他の作品
TRENDIA CLASSIC
蠢く者
葛西善藏
蠢く者
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
おせい
葛西善藏
おせい
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
哀しき父
葛西善藏
哀しき父
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
湖畔手記
葛西善藏
湖畔手記
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
哀しき父
葛西善藏
哀しき父
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
奇病患者
葛西善藏
奇病患者
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
子をつれて
葛西善藏
子をつれて
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
椎の若葉
葛西善藏
椎の若葉
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
椎の若葉
葛西善藏
椎の若葉
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
血を吐く
葛西善藏
血を吐く
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
雪をんな
葛西善藏
雪をんな
葛西善藏
TRENDIA CLASSIC
不良兒
葛西善藏
不良兒
葛西善藏