月と海豹
本文約3,500字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
北方の海で、秋に行方不明になった子供の海豹を待ち続ける親の海豹がいる。悲しみに暮れ、通り過ぎる風に子供の行方を尋ねて回るが、便りは得られない。その様子を空から見ていた月は、孤独な海豹を慰めようと決意する。やがて月は、南の国で人々が楽しげに踊る草原から太鼓を拾い上げ、北の氷山へと運ぶ。月からもたらされた太鼓を手に、海豹は悲しみを抱えながらも音を鳴らし、海を見つめて過ごす。
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北方の海は銀色に凍っていました。長い冬の間、太陽はめったにそこへは顔を見せなかったのです。なぜなら、太陽は、陰気なところは、好かなかったからでありました。そして、海は、ちょうど死んだ魚の眼のようにどんよりと曇って、毎日雪が降っていました。
一疋の親の海豹が、氷山のいただきにうずくまって、ぼんやりとあたりを見まわしていました。その海豹は、やさしい心を持った海豹でありました。秋のはじめに、どこへか姿の見えなくなった自分のいとしい子供のことを忘れずに、こうして、毎日あたりを見まわしているのであります。
「どこへ行ったものだろう……今日も、まだ姿は見えない。」
海豹はこう思っていたのでありました。寒い風は、しきりなしに吹いていました。子供を失った海豹は、何を見ても悲しくてなりませんでした。その時分は、青かった海の色が、いま銀色になっているのを見ても、また、体に降りかかる白雪を見ても、悲しみの心をそそったのであります。
風は、ひゅう、ひゅうと音を立てて吹いていました。海豹はこの風に向かっても、訴えずにはいられなかったのです。
「どこかで、私のかわいい子供の姿をお見になりませんでしたか。」と、あわれな海豹は、声を曇らしてたずねました。
いままで、傍若無人に吹いていた暴風は、こう海豹に問いかけられると、ちょっとその叫びをとめました。
「海豹さん、あなたはいなくなった子供のことを思って、毎日そこに、そうしてうずくまっていなさるのですか。私は、なんのためにいつまでも、あなたがじっとしていなさるのか分らなかったのです。私はいま雪と戦っているのでした。この海を雪が占領するか、私が占領するか、ここしばらくは、命がけの競争をしておるのですよ。さあ、私は、大抵このあたりの海の上は、一通り隈なく駆けて見たのですが、海豹の子供を見ませんでした。氷の蔭にでも隠れて泣いているのかも知れませんが……こんど、よく注意をして見て来てあげましょう。」