秋雨の絶間
本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
秋雨が降り続く中、裕福な養母に慈しまれる綾子は、山に残してきた実母を想い涙する。現在の幸福への感謝と実母への思慕の狭間で揺れる彼女は、縁日の賑わいの中で植木屋の枯れかけた笹と粗末な籠の鈴虫を求める。室内に戻り、静かな鈴虫の音色を耳にした綾子は、募る寂しさを抱えながらも、それまでになく穏やかな心境で眠りにつく。孤独と葛藤の中で自身の心と向き合おうとする少女の心理を繊細に描く。
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一
一降り欲しいとのぞんだ夏の小雨が、終日降り続いて、街の柳に煙つたかとみると、もうそれは秋雨と呼ばなければならない。軽く軽く絹糸のやうに降つてゐる小雨の音は、小声で唱歌を唄つてゐる綾子の――丁度その雨のやうに美しい音律にも消されて、たゞ静かに白銀の粉末を散らしてゐるばかりである。そしていつの間にか庭の葉末の影から綾子の黒曜石のやうな瞳までを湿ほしていつた。窓に凭つて外を眺めて居た綾子の眼には、いつか夜露の様な涙が宿つて居た。――山家に寂しく暮らしてゐる母、もう今では叔母さんと呼ばなければならなくなつた以前の母の事がまざまざと目の前に描き出された。
今の家に綾子が育てられる事となつたのは、一昨年の春だつた。それから――はや二年は過ぎた。夏の暑さは海辺の別荘へ、冬の寒さは暖かな山の温泉へ、何不自由なく過ごせる華やかな今の身の上――それに今の母は強いて綾子を欲しいと願つた程なのであつたから、それこそ玉のやうに大切に、吾子のやうに慈しむでゐるのであつた。そのことは綾子にもよく解つてゐた。心では涙の出る程感謝して居た。こんなにも可愛がつて下さる今の母の前で、以前の母を忘れ兼ねる事の出来ないのを、綾子は母に気の毒のやうな気がした。でいつも母の前では努めて快活に――過ぎた事は皆な忘れたやうにして心配を掛けまいとして居た。今の身が幸福であればある程、綾子は前の母を想はずには居られなかつた。こんな時はいつも綾子は窓に凭つて空を眺めながら唱歌を唄つて心を慰めやうとするのであつた。
いつの間にか雨は止んだ。銀扇が舞姫の手からすべり落ちたかのやうに、雨は忘れられて居た。
「おや、まあ綾ちやんはこんな所に居たのかへ。お母さんは随分探してよ。」母は手に何かの箱を持つて微笑みながら綾子の側へ来た。
「ええ……」綾子は急いで涙を拭つた。
「加減でも悪いの?」母はやさしく綾子の顔を覗いて、肩へ手を懸けた。
「いゝえ、――たゞ雨が余り綺麗なものですからこゝで見て居ましたの。いつの間にか止むでしまひましたわね。どうも済みません、お母さん御心配なさつてはいけませんわ。」