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TORENDIA

お父さんのお寝坊

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

日曜日の朝、なかなか起きようとしない父親を、娘の美津子が懸命に起こそうとする様子を描く。母から命じられた美津子は、二階へ上がり、布団から出たがらない父と根比べを始める。学校の「早起会」の話題を持ち出し、郊外への約束を盾に交渉するが、父は夢うつつで応じない。父の寝顔に言い知れぬ感情を抱き、涙を流す美津子の姿を見た母が駆けつけるまでの一幕を通し、家族の情愛と朝の騒動を描き出す。

牧野信一

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🎧 お父さんのお寝坊 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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「いくら日曜の朝だからつて、もうお起ししなければいけませんわ。もう十時ぢやありませんか。美津子さん、お前お二階に行つてお父さんをお起ししていらつしやい。」

お母さんにかう云はれると、美津子は直ぐに立ちあがりました。他の用だとかう直ぐには承知しないのですが、お父さんをお起しするといふことが、大好きなのです。別に理由もないんですが、何だか自分が斯うちよつと偉くなつたやうな気がするからなのでせう。

春風そよ吹く空を見れば――美津子は、そんな唱歌を歌ひながら、トントンと威勢よく梯子段を昇つて行きました。さうして、唐紙を開けると同時に、「お父さん!」と、大きな声で呼びました。お父さんはと見ると、スツポリ頭から布団をかぶつて、恰で亀の子のやうな形をしてグウ/\眠つてゐます。

「お父さん!」と、更にもう一度美津子は呼ばはりました。やつぱり手応へがありません。

「お父さんてば――」と三度目の呼声に、やつとお父さんは、ウーム! と唸つたが、直ぐムニヤムニヤムニヤと呟きながら、一層深く布団の中にもぐり込んでしまひました。

大へんに空の好く晴れた朝です。空には一点の雲もなく、蒼々と澄み渡つて居ります。金色の陽の光が一ぱいに縁側に充ち溢れて、とても冬の朝とは思へぬ位でした。縁側に面した障子は悉く開け放たれて、清新な朝の香が部屋の隅々まで行きわたつてゐました。

「お父さん! もう十時ですよ。お起きにならなければいけませんわ。」

それでもお父さんは起きようとはいたしません。たゞ稀にウンとか、スンとか、解らないことを呟くだけです。美津子は少々ぢれツたくなりました。で、お父さんの耳の傍へ口を寄せて、更にもう一度、大きな声で、

「お父さんもう十時ですよ。お起きにならなければいけませんわ。」と、云ひました。

「未だ早いよ。」と、お父さんは夢中でさう云つたかと思ふと、今度は反対の方を向いてグウ/\眠つてしまひました。

美津子は可笑しくなりました。「そんなにも眠いものかなア、お父さんのくせに――」と思ひましたが、美津子は負けずと直ぐまた反対の側に行つて、今度は両手で揺り動かしました。

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