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TORENDIA

天狗

本文約3,500字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

城下の台所町に住む剣客・赤星重右は、通行人の脛を斬りつける不可解な現象から「鎌鼬」と噂される。陰気な重右を疎ましく思った城内の役人は、彼を黒壁の権現堂へ追いやる。山頂に隠棲した重右は、やがて村人たちから天狗として崇められるようになる。本書は、郷里に伝わるこの奇妙な伝承を語り手と客が論じ、狂犬病の可能性を示唆しながらも、古く陰気な樹木が人間に抱かせる得体の知れない恐怖の本質について綴る。

室生犀星

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🎧 天狗 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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一

城下の町なみは、古い樹木に囲まれていたため、よく、小間使いや女中、火の見仲間などが、夕方近い、うす暗がりのなかで、膝がしらを斬られた。何か小石のようなものに躓ずいたような気がすると、新月がたの、きれ傷が、よく白い脛に紅い血を走らせた。それは鎌いたちに違いないと人々は言っていたが、その鎌鼬という名のことで、赤星重右のことが、どういう屋敷うちでも、口の上にのぼった。

城下の北はずれの台所町に、いつごろから流れ込んだものか、赤星重右という、名もない剣客が住んでいた。ふしぎなことには、かれが通り合せると、必ず彼の不機嫌なときには、きまって向脛を切られた。というより不意に、足や額に痛みを感じ、感じるときは既う額ぎわを切られていた。――それ故城下の剣客は誰一人として立向うことができなかった。大桶口、犀川口を固めている月番詰所の小役人達も、かれが通るとなるべく、彼を怒らせまいとしていた。それほど、女子供は云うまでもなく、中家老、年寄を初め、いったい彼が何故にあれほど剣道に達しているかということを不思議がった。が、誰一人として小脛を払うものさえ、広い城下にはいなかった。

それ故、かまいたちという、薄暗がりの樹の上にかがんでいる鼠のような影が、いかにも赤星重右に似ていたから、人々は、鎌いたちとさえ云えば、なりの低い、重右の姿を思い出した。――晩方、重右の屋敷へ忍び込んで見たものの話では、かれは何時ものように普通の人なみに寝ていたが、しかし、得体のわからない陰気な顔をしていたと答えた。かまいたちその物が、ひょっとしたら赤星重右ではあるまいかと、人々は、蒼白い晩方の店さきや詰所などで、噂し合って気味わるく感じた。が、べつに赤星重右は不思議な人物ではない。なりの矮い、骨格の秀でた、どこか陰気な煤皺の寄ったような顔をしていた。

二

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