TRENDIA CLASSIC

社会事情と科学的精神

石原純

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近時において世界はあらゆる混乱に陥り、すべての国家は険悪な難路を歩みつつあること周知のごとくである。我々の周囲においても思想の錯雑紛糾せること今日のごときは未だかつて見ないといってよいほどであり、したがってすべての人々がこれに多大な関心をもたないわけにゆかない有様になっている。しかも最も恐るべきことには、我々を取り囲むところの全雰囲気がいつかしら一定の偏向を示そうとするかのごとくに見えるのである。我々は正常な雰囲気の状態においてこそ、安らかに生命を保続することができるのであるのに、これがいちじるしく常態を外れるにあたって、そこに多くの憂慮すべき事情の現われることを虞れねばならないであろう。あまりに多く酸素の欠乏せる大気のなかに、我々は窒息を覚えねばならなかったであろうし、もしまた反対に、酸素の過剰に出遇うならば、各人はいたずらに昂奮して無意味な乱舞に陥るかも知れない。だが、すでに非常時の声が我々の国内に漲って以来、この国土における雰囲気はどんな変化を示しつつあるのか。とくにいわゆる五・一五事件や二・二六事件のごとき悲痛なる体験を経来って、そこには明らかにファシズム的色彩が漸次濃厚に達しつつあるではないか。かくのごときものは果して我々の避け得られない運命であったのかどうか、我々は今日においてまさに我々みずからを正視する必要があるであろう。

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