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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約12,700字 ・ 読了時間 約26分

あらすじ(AIが作成しました)

明神下に住む御用聞の錢形平次は、子分の八五郎から持ち込まれた奇妙な色文の相談を受ける。九段の中坂下で若い娘に呼び出された八五郎は、そこで起きた事件をきっかけに、柳屋の姉妹が関与する謎多き騒動に巻き込まれる。平次は現場での八五郎の体験談から事実を整理し、姉妹による精巧な計略と、その背後でうごめく関係者の影を一つずつ解き明かしていく。江戸の街で起きた不可解な事件の真相を、鋭い洞察力で鮮やかに推理し、捕物控の様相を描く。

野村胡堂

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一

「へツ、へツ、親分え」

ガラツ八の八五郎は、髷節で格子戸をあけて、――嘘をつきやがれ、髷節ぢや格子は開かねえ、俺のところは家賃がうんと溜つて居るから、表の格子だつて、建て付けが惡いんだからと――、錢形の平次は言やしません。

兎も角、恐れ入つた樣子で、明神下の平次の家へ、八五郎はやつて來たのです。

「此方へ入んな、何をマゴ/\してるんだ」

平次はツイ、長火鉢の向うから聲をかけました。入口の障子を開けると、家中が見通し、女房のお靜が、お勝手で切つて居る、澤庵の數までが讀めやうといふ家居です。

「それがね、親分、少し敷居が高いんで、へツ」

「いやな野郎だな、敷居が高かつたら、鉋でも持つて來るが宜い、土臺ごと掘り捨てたつて、文句は言はねえよ」

「さう言はれると面目次第もねえが、あつしは生れてからたつた一度、親分に内證で、仕事をやらかさうとしたんで」

「何んだ、そんな事か、恐れ入ることは無いぢやないか、お前も立派な一本立ちの御用聞だ、うまい具合に酒呑童子を縛つて來たところで、俺は驚きはしないよ、一體何をやらかしたんだ」

錢形平次は一向氣にする樣子もありません。それよりは、何時までも平次の子分で甘んじてゐる八五郎を、早く一本立の立派な御用聞にして、嫁でも貰つてやりたい心持で一ぱいだつたのです。

「それが、そのね、最初から話さなきやわかりませんが――極りが惡いなア、親分」

八五郎は言ひそびれて、ポリ/\と小鬢を掻いたりするのです。

「極りなんか惡がる面ぢや無いぜ、お前は」

「極りの方で惡がる面でせう、その台詞は何度も聽きましたよ、――ところがね、親分、あつしが、生れて始めて、戀文をつけられたとしたらどんなもんです」

「ウフ、ツ」

「嫌だなア、さう言ふ下から、親分は直ぐ笑つてしまふでせう」

「笑はないよ、笑はないと言つたら、金輪際笑はないよ、俺は今、死んだお袋のことを考へてゐるんだ」

「笑はなきや言ひますがね、天地紅の半切に、綺麗な假名文字で、――一と筆しめし上げ※[#まいらせそうろう、7-2]――と來ましたね、これならあつしだつて讀めますよ」

「その手紙は何處にあるんだ、俺が讀んだ方が早く埒があきさうだ」

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