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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約12,600字 ・ 読了時間 約26分

あらすじ(AIが作成しました)

江戸の町を疾風の如く荒らし回り、盗んだ品を即座に持ち主へ返却する不思議な盗賊「風太郎」が現れる。捕り物の名人・銭形平次は、その類まれな手際と豪胆な犯行に手を焼きながらも、唯一の逃げ道となった難事件の捜査を通じて、盗みを繰り返す男・珊五郎と、その行状を案じて品々を返して回っていた娘の存在に辿り着く。平次は鮮やかな推理と粋な計らいで事態を収拾し、怪盗の正体を突き止める。

野村胡堂

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一

人間業では盜めさうもない物を盜んで、遲くとも三日以内には、元の持主に返すといふ不思議な盜賊が、江戸中を疾風の如く荒し廻りました。

「平次、御奉行朝倉石見守樣から嚴い御達しだ、――近頃府内を騷がす盜賊、盜んだ品を返せば罪はないやうなものではあるが、あまりと言へばお上の御威光を蔑しろにする仕打だ。明日とも言はず、からめ取つて來い――と仰しやる、何とか良い工夫はあるまいか」

南町奉行付、與力筆頭笹野新三郎、自分とは身分が違ひ乍ら、親身のやうに思つて居る捕物の名人錢形の平次に、斯う打ち明けて頼み込みました。

「へエ、――私も考へないぢや御座いません。盜んで直ぐ返すといふやり方が第一氣に入りません。戀の附文、貧の盜みと言ふ位で、食ふに困つての盜みなら、惡い乍らも可哀想とも思ひます。盜んだ品を翌る日返すのは、盜みを道樂にして居る人でなきア、私共を飜弄て居るに相違御座いません、何とかしてあの野郎をフン捕まへなきア、錢形の平次も世間へ顏向けがなりません」

平次は、日頃の穩厚な樣子にも似ず、ツイ拳固で膝を叩き乍ら、縁側の敷居際までにじり寄ります。

「お前がその氣なら、遠からず捉まへられるだらう――少しは心當りがあるだらうな」

「恥づかし乍ら、何の手掛りも御座いません」

「女泥棒だといふが、本當だらうな」

「それも當にはなりません。盜んだ品を返しに來るのは、目の醒めるやうな美しい新造だつて言ひますが、それが盜むにしちや、手際が良過ぎます」

「と言ふと」

「鍵や錠が苦もなく外すのは兎も角として、一丈も一丈二尺もある塀を飛越したり、長押を踏んで座敷へ忍び込んだり、とても女や子供に出來る藝當ぢや御座いません」

「フーム」

笹野新三郎も、錢形の平次も、近頃人も無げに出沒する怪盜――風の如く去來するから世間では風太郎と言つて居りますが――には全く手を燒いてしまひました。

「たつた一つ、仕殘した手段が御座います」

「どんな事だ」

「謀事は密なるを要すつて申しませう。もう二三日お待ち下さいまし」

「ハツハヽヽヽ、平次は思ひの外學者だな」

「へエ――」

苦味走つた好い男の平次も、笹野新三郎に逢つては頭が上がりません。

二

「親分」

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