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TORENDIA

錢形平次捕物控

本文約11,800字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

江戸の狸穴で、かつての大藩で指南番を務めた浪人・福島嘉平太が竹光で刺殺される事件が発生する。現場には嘉平太の娘・お頼と下男の藤助、そして知人の浪人・跡部満十郎がいた。嘉平太は別藩の岩根半蔵と過去に起きた御金藏の小判三千両盗難事件を巡り、互いに疑い合いながら監視生活を送っていた。銭形平次は、事件の背景に渦巻く執念と人間関係を追い、意外な真相へと迫っていく。

野村胡堂

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一

「平次、狸穴まで行つて見ないか、竹光で武家が一人殺されたんだが――」

與力笹野新三郎は、丁度八丁堀組屋敷に來合せた、錢形平次を誘ひました。

「旦那が御出役で?」

「さうだよ。浪人者には違ひないが、土地では評判の良い人物だ。放つても置けまい」

八丁堀の與力が出役するのは、餘程の大捕物で、いづれは殺された武家の舊藩關係に、厄介なことでもあるのでせう。

「お供いたします。丁度、八五郎も參つて居りますから」

「さうしてくれると都合が宜い」

笹野新三郎は、錢形平次を信頼し切つて居ります。土地の御用聞は、うるさい繩張のことを言ひ出しさうですが、與力のお聲掛りで行く分には、文句の言ひやうはありません。

櫻は八重、日和も陽氣も、申分のない春でした。竹光で武家が殺されたといふ、煽情的な事件がなくとも、若くてハチ切れさうな平次は、江戸中を一廻りしたいやうな心持になつて居たのです。

「やつとうの方はいけたんでせうね、その浪人者は?」

平次は道々も竹光の事が氣になつてなりません。

「微塵流の遣ひ手で、さる大藩の指南番までした人物ださうだ」

「それが、竹箆で殺られたんですか」

「變つて居るだらう」

そんな事を言ひ乍ら、三人は芝山内から麻布狸穴へ、ゆら/\ゆらぐ、街の陽炎を泳ぐやうに辿つて居たのです。

狸穴に着いたのは晝少し過ぎ、この邊は山の手の盛り場で商ひ家も多く、手輕な見世物や、茶屋、楊弓場などのあつた時代ですが、一歩裏通りに入ると、藁葺のしもた家が軒を竝べ、安御家人や、浪人暮しなどの人が、さゝやかな畑を拵へて、胡瓜や南瓜を育てゝゐると言つた、一種變つた風物が特色でもあつたのです。

「お待ち申して居りました、旦那」

狸穴のとある家、生垣の前に、土地の岡つ引が待つて居りました。狸穴に縁を持たせて鼓の源吉といふポンポンした四十男。

「鼓の親分、私も目學問をさして貰ひますよ」

平次はへり下だつて肩の手拭を取りました。

「宜いとも、錢形の兄哥が來てくれると、俺も心強いといふものだ」

あつさりした口はきゝますが、何か腹の底に蟠りがないではありません。

「死骸は?」

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