TRENDIA CLASSIC

非名誉教授の弁

和辻哲郎

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わたくしは東京大学の名誉教授ではない。というよりも、わたくしには東京大学の名誉教授となる資格はないのである。しかるに近ごろわたくしは時々東京大学の名誉教授と間違えられる。間違えられたところで、それによってわたくしが何か利益を得るわけでもなければ、また間違えた人がそれによって何か損をするわけでもないのであるから、そんなことはどうでもよいことなのであるが、しかし事実と相違していることはちょっと気持ちの悪いものであるし、また人によると和辻はおのれの価しない「名誉」を不当に享受していると考えないものでもない。そういう誤解を受ければ、わたくしは名誉教授と間違えられることによって「名誉」を不当に享受するどころか、逆に不当な「不名誉」をうけることになる。暑さで仕事のできないのを幸いに、名誉教授にあらざるの弁を弄するゆえんである。

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