銭形平次捕物控
本文約12,300字 ・ 読了時間 約25分
あらすじ(AIが作成しました)
目白台の大地主、寅五郎が自室で刺殺される。複数の人物に恨まれていた事件に対し、銭形平次は助手の八五郎を差し向ける。現場を調べた八五郎の報告を受け、平次は犯行の矛盾点を指摘する。その後、犯行を自供した被害者の使用人の倅・松太郎を平次が問い詰め、真相を明らかにする。事件後、平次の働きかけにより不当に奪われた土地が元所有者たちの手に戻り、関係者は平穏な日常を取り戻す。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「親分、良い陽気じゃありませんか。少し出かけてみちゃどうです」
ガラッ八の八五郎が木戸の外から風の悪い古金買いのような恰好で、こう覗いているのでした。
「なんだ八か。そんなところから顎なんか突き出さずに、表から廻って入って来い」
銭形平次は、来客と対談中の身体を捻って、大きく手招ぎました。
「顎――ですかね、へッ、へッ」
ガラッ八は首を引っ込めて、不平らしく長い顎をブルンと撫で廻します。
「木戸の上へ載っかったのは、まさか鼻の頭じゃあるめえ。体裁振らずに、さっさと大玄関から入って来るがいい」
「大玄関と来たぜ、へッ、へッ、親分もいい気のものだ。敷台に隣の赤犬が寝そべっているんだが蹴飛ばしても喰い付きゃしませんか」
「ていねいに挨拶をして通るんだよ。犬だって見境があらア、平常乱暴なことをするから、お前の顔を見ると唸るじゃないか。――あの通りだよ、三つ股の兄哥。目白までつれて行ったところで、大した役には立つまい」
平次は客を見て苦笑するのです。
客というのは、目白台で睨みを利かしている顔の古い御用聞で、三つ股の源吉という中年者ですが手に余るほどの大事件を背負い込んで、町方役人からさんざんに油を絞られ、フト二三年前、鬼子母神様境内の茶店の娘、お菊殺しの難事件を解決した(「玉の輿の呪い」)銭形平次の鮮やかな腕前を思い出して、我慢の角を折って助勢を頼みにやって来たのでした。
「親分、何か用事ですかえ」
八五郎はそれでも犬にも噛み付かれず、障子の外から膝行り込みました。
「三つ股の兄哥だ。挨拶をしな」
「ヘエ、今日は」
「おや、八五郎兄哥、いつも元気で結構だね。――用事というのは、あっしが持込んで来たんだが、きのう雑司ヶ谷に厄介な殺しがあったのさ。わけもなく下手人を挙げられると思ったところが大違い、臭い奴が三人も五人もいて、どれを縛ったものか、まるっきり見当が付かねえ。十手捕縄を預かってこんなことを言うのは業腹だが、今度ばかりは手を焼いたようなわけさ」
「殺されたのは、新造ですかえ、年増ですかえ」
八五郎は膝小僧に双掌を挟んでにじり寄ります。
「馬鹿だなア、三つ股の兄哥が男とも女とも言ってないじゃないか」
と平次。