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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約9,900字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

元飯田町の荒物屋で、後家のお嘉代が三百両を奪われる事件が発生する。銭形平次は、武芸の心得がある曲者の手口から、金銭に困窮していた御家人の藤井重之進に疑いの目を向ける。平次は、お嘉代の娘のお桃を人質に取った犯人に対し、動かぬ証拠を突きつける警告文を送りつけることで、娘の無事な帰還を果たす。お嘉代は財産を失ったものの、平次の機転により、倅の文次郎とお菊の縁談が成就する。

野村胡堂

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一

「親分、元飯田町の騒ぎを御存じですかえ」

「なんだい、元飯田町に何があったんだ」

ガラッ八の八五郎がヌッと入ると、見通しの縁側に踞んで、朝の煙草にしている平次は、気のない顔を振り向けるのでした。

江戸中に諜報の網を張っている順風耳の八五郎は、毎日下っ引が持ってくる夥しい事件の中から、モノになりそうなのを一応調べて親分の銭形平次に報告するのです。

「なアに、つまらねえ物盗りなんだが、怪我人があるから、俎橋の大吉親分がやっきとなって調べていますよ」

ガラッ八がつまらねえと片付ける事件に、とんだ大物のあることを平次はときどき経験しております。

「大吉親分がやっきとなるようじゃ馬鹿にはなるまいよ。誰が怪我をして、何を奪られたんだ」

「元飯田町の加島屋――親分も御存じでしょう」

「後家のお嘉代というのが荒物屋をやって、内々は高利の金まで廻しているという名代の因業屋だろう」

「その加島屋へ宵泥棒が入ったんで」

「フーム」

「手代の与之松は使いに出た留守、倅の文次郎は町内の風呂、娘のお桃はお勝手でお仕舞の最中、後家のお嘉代がたった一人で金の勘定を済ませ、用箪笥へ入れたところを、後ろから忍び寄った曲者に脇腹を刺され、あっと振り返るところを、手燭を叩き落されて、用箪笥の財布を盗まれたんだそうで」

「財布にいくら入っていたんだ」

「三百両という大金ですよ」

「それからどうした」

「物音におどろいてお勝手から娘のお桃が飛んで来ると、母親は血だらけになって眼を廻している。曲者は狭い庭を一と飛びに、生垣を越して逃げ出したんだそうで。――昨夜はずいぶん暑かったが、それにしても縁側を開けたままで金の勘定をしていたのは、少し用心が悪すぎましたね」

「八五郎なら叔母さんから貰ったお中元の小銭でも、用心深く便所の中へ持込んで勘定する」

「冗談でしょう」

「ところで加島屋の後家の傷は?」

相変らず冗談を交換しながら、平次には事件の外貌を八方から探ろうとする興味が動いた様子です。

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