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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約13,100字 ・ 読了時間 約27分

あらすじ(AIが作成しました)

江戸の本銀町にある大店・浅田屋の手代幸吉は、一年前から届く奇妙な白紙の手紙に主人が苦悩していると平次に相談する。平次が調査に乗り出すと、かつて起きた大事件や主人の死など、店を巡る不穏な動きが次々と浮かび上がる。平次は現場の盆栽からかつて失われた宝物を見つけ出し、犯人の文六による一連の策略と凶行を暴き、隠された真相を明らかにしていく。

野村胡堂

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一

「親分ちょいと――」

ガラッ八の八五郎は、膝小僧で歩くように、平次のとぐろを巻いている六畳へ入って来ました。

「なんだ八、また、お客様をつれて来たんだろう。今度はなんだえ、若い人のようだが――」

「どうしてそんなことが判るんで? 親分」

「お前の顔にそう書いてあるじゃないか」

「ヘエ――」

ガラッ八は平手で長い顔をブルブルンと撫で廻すのです。

「平手で面を掻き廻したって、人相が変るものか。馬鹿だなア」

「ヘエー、そんなもんですかねエ」

「庭へ長い影法師が射して、せっかく明神様の森から来た、藪鶯が啼き止んだじゃないか。若くてイキの良い人間が門口に立っていることが解らなくてどうするんだ」

「なるほどね、そう聴くと一向他愛もありませんね。おい、手代さん、遠慮することはねえ、親分は見通しだ、ズッと入って来なさるがいい」

ガラッ八は表の方へ身体をねじ曲げて、門に立っている人を呼込むのでした。

「それじゃ親分さんは逢って下さるでしょうか」

「逢うも逢わねエもあるものか、俺が承知だ。真っ直ぐに入って来るがいい。ねえ親分、これが本銀町の浅田屋の手代で、幸吉さんというんだが、とにもかくにも、一つ話を聴いてやって下さいよ」

ガラッ八は平次の引込み思案にものを言わせないように、外に待たした客を呼込むと、万事心得て平次の前へ押しやるのです。

近ごろ江戸中に響いた平次の名を慕って、流行易者ほど相談事が殺到するのを、お上の御用以外は、梃子でも動くまいとする平次は、その大部分は追っ払いましたが、中にはそれを心得て、女房のお静や子分の八五郎の手を経て、こんな調子に持込むのも少なくなかったのです。

紛失物を嗅ぎ廻したり、女出入りの仲裁までさせられるのは、平次にしても、有難くはありません。が、どうかするとその愚にもつかぬ相談事の中に、とんでもない事件が孕んでいたりするので、活動家のガラッ八は、いちいちチョッカイを出して、一つでも多くの事件を取込もうとするのです。

「八、何だか知らねエが、ひどく心得ているじゃないか。それほど力瘤を入れるならお前が埒をあけてやったらよかろう」

平次は少し苦りきります。

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