銭形平次捕物控
本文約11,600字 ・ 読了時間 約24分
あらすじ(AIが作成しました)
銭形平次は、浪人城弾三郎の殺害容疑で笹屋のお松が捕らえられた事件に際し、岡っ引の八五郎と共に真相解明に乗り出す。現場の状況から、被害者が何者かに待ち伏せされた可能性を察した平次は、被害者と因縁のある高木勇名の動向に注目する。平次は、病床の勇名の娘である茂野が、家族を苦しめた悪党に対し密かに罠を仕掛けていたという仮説を立てるが、その真相を胸に秘めたまま、事件の幕引きを図る。
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一
「お早う」
ガラッ八の八五郎は、尋常な挨拶をして、慎み深く入って来ると、お静のくんで出した温かい茶を、お薬湯のように押し戴いて、二た口三口啜りながら、上眼づかいに四辺を見廻すのでした。
「どうした八、たいそう御行儀が良いようだが、何か変ったことでもあったのかい」
銭形平次は縁側に寝そべったまま、冬の日向を楽しんでおりましたが、ガラッ八の尤もらしい顔を見ると、悪戯っ気がコミ上げてくる様子で、頬杖を突いた顔をこちらへねじ向けました。
「何でもありませんよ。ほんのちょいとしたことで」
「そうじゃあるまい、何かお前思い込んでいるだろう。借金取りに追っかけられるとか、義理が悪い昔馴染に取っちめられたとか」
「そんな事じゃありません」
「だって、急に起居振舞が小笠原流になったり、膝っ小僧がハミ出してるくせに、日本一の鹿爪らしい顔をしたり、お前よほどあわてているんだろう」
「なアに、ほんのちょいとした事があっただけですよ」
「何だそのちょいとした事てえのは? 気になるぜ、八」
「実はね、親分」
「恐ろしく突き詰めた顔をするじゃないか。何だい」
「笹屋のお松が三輪の親分に縛られたんですよ」
それは当時、両国の水茶屋の茶汲女の中でも、番付に載る人気者で、ガラッ八の八五郎も、一時は夢中になって、毎日通った相手だったのです。
「何か悪い客の巻添えにでもなったのか」
「そんな事なら心配しませんがね、人殺しの疑いが掛ったんだそうで」
「人殺し?」
「親分はまだ聞きませんか、ゆうべ平右衛門町の河岸っ端で、浪人者の殺された話を」
「聴いたよ、福井町の城弾三郎という評判のよくない浪人者が、脇差で胸を突かれて死んでいたんだってね。――恐ろしく腕の出来る浪人者だというじゃないか、茶汲女や守りっ娘には殺せねえよ」
「ところが、三輪の万七親分は、お松を縛ったんで、――もっともお松は悪い物を持っていました」
「何を持っていたんだ」
「ギヤマンの懐ろ鏡、――こいつは男のくせにお洒落だった城弾三郎の自慢の品だったんで」
「フーム」
「けさ友達に見せているところを、運わるく城弾三郎殺しの下手人捜しに来ている、お神楽の清吉に見られてしまったんです」