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TORENDIA

接吻

本文約6,200字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

新妻のお花が夜な夜な他人の写真を抱きしめる姿を目撃した山名宗三は、課長の村山との不貞を疑い激しい嫉妬に駆られる。問い詰められたお花は、それが鏡の反射による誤解だと主張し、納得した宗三は安堵する。しかし、この鏡のトリックさえもお花の策略であり、真相は闇の中であるという夫婦の心理の裏側と、疑心暗鬼に陥る夫の姿を描く。

江戸川乱歩

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🎧 接吻 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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一

近頃は有頂天の山名宗三であった。何とも云えぬ暖かい、柔かい、薔薇色の、そして薫のいい空気が、彼の身辺を包んでいた。それが、お役所のボロ机に向って、コツコツと仕事をしている時にでも、さては、同じ机の上でアルミの弁当箱から四角い飯を食っている時にでも、四時が来るのを遅しと、役所の門を飛び出して、柳の街路樹の下を、木枯の様にテクついている時にでも、いつも彼の身辺にフワフワと漂っているのであった。

というのは、山名宗三、この一月ばかり前に新妻を迎えたので、しかも、それが彼の恋女房であったので。

さてある日のこと、例の四時を合図に、まるで授業の済んだ小学生の様に帰り急ぎをして、課長の村山が、まだ机の上をゴテゴテ取片づけているのを尻目にかけて、役所を駈け出すと、彼は真一文字に自宅へと急ぐのであった。

赤い手絡のお花は、例の茶の間の長火鉢に凭れて、チャンと用意の出来たお膳の前に、クツクツ笑いながら(何てお花はよく笑う女だ)ポッツリと坐っていることであろう。玄関の格子が開いたら、兎の様に飛び出す用意をしながら、今か今かと俺の帰りを待っていることであろう。テヘヘ、何てまあ可愛い奴だろう。そんな風にはっきり考えた訳ではないが、山名宗三の道々の心持を図解すると、まあこういったものであった。

「今日は一つ、奴さん、おどかしてやるかな」

自宅の門前に近づくと、宗三はニヤニヤ独笑いを浮べながら考えた。そこで、抜足差足、ソロリソロリと格子戸を開けて、玄関の障子を開けて、靴を脱ぐのも音のせぬ様に注意しながら、いきなり茶の間の前まで忍び込んだ。

「ここいらで、エヘンと咳ばらいでもするかな。いや待て待て。やつ独りでいる時にはどんな恰好をしているか、一寸すき見をしてやれ」

で、障子の破れから茶の間の中を覗いて見ると、さあ大変、山名宗三、青くなって硬直した。というのは、そこに、いとも不思議な光景が演じられていたからで。

二

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