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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約9,600字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

柳原の河岸で番頭の清六の首のない死骸が発見される。銭形平次は現場の状況から辻斬を装った計画的な犯行と見抜き、事件の裏にある越前屋の遺産相続を巡る不穏な動きに注目する。店主の急死後、大坂へ出張中とされる支配人の吉三郎に疑いの目を向けた平次は、持ち前の推理力と証拠集めにより、吉三郎が店を乗っ取るために清六を殺害した真相を暴く。さらに、行方不明となっていた店主の遺言状も墓所の塔の中から発見され、事態は収束へ向かう。

野村胡堂

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一

柳原の土手下、ちょうど御郡代屋敷前の滅法淋しいところに生首が一つ転がっておりました。

朝市へ行く八百屋さんが見つけて大騒ぎになり、係り合いの町役人や、野次馬まで加わって捜した揚句、間もなく首のない死骸が水際の藪の中から見つかり、それが見知り人があって、豊島町一丁目で公儀御用の紙問屋越前屋の大番頭清六と判ったのは、だいぶ陽が高くなってからでした。

ガラッ八の八五郎の大袈裟な注進で、銭形平次が来たのはまだ検屍前。

「寄るな寄るな見世物じゃねエ」

そんな調子で露払いをするガラッ八の後ろから平次は虔ましい顔を出して、初秋の陽の明るく当る筵を剥ぎました。

殺された清六は五十七八、小作りの胡麻塩髷、典型的な番頭ですが、死骸の虐たらしさは、物馴れた平次にも顔を反けさせます。

「辻斬でしょうね、ひどい事をするじゃありませんか」

八五郎は横から覗きました。

「…………」

平次は黙って首を振りました。こんな下手な辻斬があるわけもありません。

「越前屋からは、まだ引取り手が来ませんよ。親分」

八五郎はそれが不平そうです。

「ツイ二十日前に、主人が卒中で死んだばかりだから、無理もないが――」

町役人は弁解がましく口を入れました。そういえば越前屋の主人佐兵衛が急死したことは、平次もガラッ八も聴いておりました。重なる不幸で、越前屋の混雑は思いやられます。

「――そのうえ店のこと万端取仕切っている甥の吉三郎さんが、大坂へ商売用で行っているとかで、迎えの飛脚を出す騒ぎでしたよ」

町役人は更に注を入れました。

「濡れ手拭を持っているところを見ると、風呂の帰りでしょうね。親分」

「鬢も濡れているよ。――風呂の帰りに、わざわざ柳原河岸へ出るのは変じゃないか。それに――」

平次は首を傾けております。

「何か変なことがあったんですか、親分」

「変なことだらけだ」

「首を斬るのは穏やかじゃねエ。辻斬でなくても、下手人は武家に決ってるようなものですね」

と八五郎。

「穏やかな人殺しというのはないだろうが、――この下手人は武家じゃないよ」

「ヘエ――」

「やっとうの心得などのない人間だ」

「何だって、それじゃ首を斬り落したんでしょう」

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