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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約12,400字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

横山主計の屋敷の奥庭で、不気味な仮名文字が書かれた小菊の紙片が三日連続で見つかる怪異が起きる。石川孫三郎の依頼を受けた銭形平次は、悪戯の謎を解明するため旗本屋敷へと向かう。平次は屋敷内で暗躍する浅井朝丸を注視し、使い古された紅筆と唐墨の形跡から、一連の所業が内部の者の罠であることを突き止める。謎めいた呪文の正体を見破り、平次は知略を駆使して事件の真相を暴き、混乱を収束させていく。

野村胡堂

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一

「御免」

少し職業的に落着き払った声、銭形平次はそれを聞くと、脱いでいた肌を入れて、八五郎のガラッ八に目くばせしました。あいにく今日は取次に出てくれる、女房のお静がいなかったのです。

「へッ、あの声は臍から出る声だね」

ガラッ八は頸を竦めて、ペロリと舌を出しました。

「無駄を言わずに取次いでくれ」

「当てっこをしましょうや、――年恰好、身分身装」

「馬鹿だなア」

「まず、お国侍、五十前後の浅黄裏かな」

ガラッ八は尤もらしく頸を捻ります。

「訛がないぜ、――それに世馴れた調子だ――まず大家の用人というところかな」

平次もツイ釣られます。

「御免」

もう一度、錆のある素晴らしい次低音が、奥のひそひそ話を叱るように響きました。

「それ、お腹立ちだ。言わないことじゃない」

ガラッ八は月代を薬指で掻いて、もう一度ペロリと舌を出しながら、入口の方へ飛んで行きます。

「仔細あって、主人御名前の儀は御免蒙るが、拙者は石川孫三郎と申す者。平次殿にお願いがあって罷り越した、ほんのちょっと逢って頂きたい」

少し横柄ですが、ハキハキと物を運び馴れた調子です。

「お聞きの通りだ、親分、――この賭は口惜しいが親分の勝さ、四十五六の型へ入れて抜いたような御用人だ。逢いますか、親分」

ガラッ八はモモンガアみたいな手付きをして見せます。

「御武家は苦手だが、折角こんな所へ来て下さったんだ、とにかくお目に掛るとしよう。こちらへ丁寧にお通し申すんだ」

「お家の重宝友切丸か何か紛失したんだろう、むつかしい顔をしているぜ、親分」

「無駄を言うな」

「ヘエ――」

ガラッ八はようやく客を導いて来ました。前ぶれ通り、存分に野暮ったい四十五六の武家、羽織の紐を観世縒で括って、山の入った袴、折目高の羽織が、少し羊羹色になっていようという、典型的な御用人です。

「これは、高名なる平次殿でござるか。拙者は石川孫三郎と申す、以後御見識りおきを願いたい」

肩肘を張って、真四角にお辞儀をします。

「ヘエ、恐れ入ります。私は平次でございます。どうぞ、お手をおあげ下さいまし」

平次はすっかり恐縮してしまいました。どうも一番あつかいにくい種類のお客様です。

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