宇宙旅行の科学
本文約17,200字 ・ 読了時間 約35分
あらすじ(AIが作成しました)
宇宙旅行の実現に向けた科学的な可能性と課題を論じる。人工衛星をベースキャンプとして建設する意義を説き、第二次世界大戦中のV2号ロケットを起点とした技術的発展と、アメリカにおける研究の現状を解説する。軌道力学の原理や人工衛星内での生命維持といった具体的な問題に触れつつ、過度な期待を戒め、宇宙旅行の実現には各分野における基礎科学の地道な進捗が不可欠であることを強調する。
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宇宙旅行の夢
宇宙旅行の夢くらい、素晴らしくて、又罪のない夢はない。そういう夢に、いよいよ実現の可能性が出てきたのならば、これは戦争の悪夢にうなされているわれわれには、何よりの清涼剤になるであろう。アメリカの海軍が、時速五千八百マイルのロケットを註文したことは、この可能性を実証するものだが、まず人工衛星をつくることが、宇宙旅行の第一歩である。これさえ出来れば、それを足場にして、そこから宇宙船をとび出させれば、比較的容易に、天体までの旅行が出来るのである。地球からすぐ天体へとび出すのは、ベース・キャンプをつくらないでエヴェレストへ登ろうとするような話である。エヴェレストの頂上をきわめようと思ったら、まずベース・キャンプをつくらねばならない。そして人工衛星が、この場合のベース・キャンプなのである。
それで人工衛星をつくることの可能性如何が、宇宙旅行が科学の問題になるか、空想小説の種になるかという岐れ目である。今度アメリカ海軍が発註したロケットの規格は、この人工衛星をつくる一つの可能性を示した点において、かなり重要な意味がある。
第二次世界大戦の末期頃に、ヒットラーが、この人工衛星をつくる研究を指令したことがある。この話は、当時の日本の新聞にも出ていたので、記憶に残っている方もかなりあるであろう。もっともあまりにも突飛な話なので、たいていの人は、法螺話か新聞記事のデマとして、気にも止めず、読み棄てられたにちがいない。しかし今から考えてみれば、ヒットラーが、大真面目にこの問題をとり上げたとしても、ちっとも可笑しくないのである。というのは、現在アメリカで、一部の人たちの間ではあるが、本気で人工衛星のことを考えているのは、けっきょく第二次大戦中に独逸で発明されたV2号ロケットの改良の問題に帰するわけである。