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TORENDIA

大阪人と科学精神

本文約980字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

「もうかりまっか」を挨拶代わりにする大阪商人の商魂と、科学者が真理を追求する精神の共通性を論じる。実力で成果を出すことの困難さを理解し、良いものを安く提供するために努力する姿勢を肯定する。政治との結託による利益追求を退け、実力至上主義という科学精神に通じる商人の気質こそが、繊維工業などの発展を支えたと考察する随筆である。

中谷宇吉郎

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今のことはよく知らないが、一昔前のいわゆる大阪商人は朝、人に会うと「おはようございます」の代りに「もうかりまっか」と言ったそうである。それには「いやあきまへんで」という受言葉がある。

東京の実業家の中には、この例をひいて大阪商人を軽べつする人がある。しかし私は、そういう大阪人をひどく尊敬している。というのは、われわれの仲間のうちで、朝、人に会った時に、最初に「実験は巧く行っていますか」と聞く人は、滅多にないからである。

戦争前の話であるが、日本の繊維工業が、ランカシャーを打倒した陰には、女工哀史もあるが、そればかりではない。この商魂があったからである。戦前のいろいろな方面における日本の発展は、たいていの場合、その陰に武力があった。本当に実力で先進国と争って、堂々と勝ちを制したのは、水泳と繊維工業くらいのものである。そしてそれを為しとげた功績の一半は「もうかりまっか」が「おはよう」の代りになるという商魂にある。

この商魂が生まれたのは、大阪に政治の中心が無かったからであろう。実業家が政治、即ち権力と結びつき易いところには、こういう商魂は生まれない。政治と結託して金をもうけるのは、陸軍を背景に満州を開発するようなもので、誰にでも出来ることである。

商人が実力で金をもうけるのは科学者が勉強によって真理を発見するのと、同様に価値のあることである。実力で金をもうけることは非常に困難で、それには努力によって良いものを安く供給するより他に道がない。ごまかしや機転も一時は効くかもしれないが、そんなことでもうける金はたかがしれている。とてもランカシャーを破ることは出来ない。

大阪人は科学と縁遠いとよくいわれるが、私には案外深いところで、大阪の商魂に科学精神と通ずるものがあるように思われる。科学は実力だけのものである。ニュートンの子供でも、アインシュタインの弟でも、それだけでは誰も科学者とは言わない。

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