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TORENDIA

陰獣

本文約66,800字 ・ 読了時間 約134分

あらすじ(AIが作成しました)

探偵小説家である語り手は、上野の博物館で出会った美しい女性・静子と親しくなる。静子の身に起きた事件をきっかけに、語り手は探偵作家・大江春泥の存在を知り、次第に彼女を巡る恐ろしい疑惑と妄想に深く沈み込んでいく。自身の道徳心や猜疑心が引き起こした心の闇に苦悩しながら、語り手は事件の真相を追う。架空の人物と思われていた男や静子の過去を辿りつつ、消えた真相を追い求める記録を綴る。

江戸川乱歩

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一

私は時々思うことがある。探偵小説家というものには二種類あって、一つの方は犯罪者型とでも云うか、犯罪ばかりに興味を持ち、仮令推理的な探偵小説を書くにしても、犯人の残虐な心理を思うさま書かないでは満足しない様な作家であるし、もう一つの方は探偵型とでも云うか、ごく健全で、理智的な探偵の径路にのみ興味を持ち、犯罪者の心理などには一向頓着しない様な作家であると。そして、私がこれから書こうとする探偵作家大江春泥は前者に属し、私自身は恐らく後者に属するのだ。随って私は、犯罪を取扱う商売にも拘らず、ただ探偵の科学的な推理が面白いので、聊かも悪人ではない。いや恐らく私程道徳的に敏感な人間は少いと云ってもいいだろう。そのお人好しで善人な私が、偶然にもこの事件に関係したというのが、抑も事の間違いであった。若し私が道徳的にもう少し鈍感であったならば、私にいくらかでも悪人の素質があったならば、私はこうまで後悔しなくても済んだであろう。こんな恐ろしい疑惑の淵に沈まなくても済んだであろう。いや、それどころか、私はひょっとしたら、今頃は美しい女房と身に余る財産に恵まれて、ホクホクもので暮していたかも知れないのだ。

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