TRENDIA CLASSIC
聖アンデルセン
小山清
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「海は凪いでいた。」と月は言った。「水は私が帆走っていた晴朗な空気のように透明だった。私は海の表面より深く下の方の珍しい植物を見ることが出来た。それは森の中の巨大な樹木のように、数尋の茎を私の方へ差上げていて、その頂きの上を魚が泳いで行った。空中高く一群の野生の白鳥が渡っていた。その中の一羽は翼の力が衰えて下へ下へと沈んで行った。彼の眼はだんだん遠ざかってゆく空中の隊商の後を逐ったが、両翼を広くひろげたまま、石鹸球が静かな空気の中で沈むように、沈んで行って水面に触れた。首は翼の間に折り曲げられた。彼は穏やかな内海の上の白い蓮の花のように静かに横たわっていた。やがて風が起って軽い水面に襞をたてた。水面はまるで大きな広い浪になって転がるエエテルででもあるように、きらきら輝いた。白鳥は首をあげた。閃々と光る水は碧い火のように胸と脊を洗った。朝の微光が赤い雲を照らした。白鳥は力づいて立上った。そうして昇る太陽の方へ、空中の隊商が飛んで行った、碧みがかる岸辺の方をさして翔けて行った。しかし唯ひとり胸に憧憬を抱いて翔けた。碧いふくらみあがる水を越えて寂しく翔けた。」
――アンデルセン「絵なき絵本」茅野蕭々訳―― [#改ページ]
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