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TORENDIA

聖家族

本文約5,500字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

ナザレの町で暮らす大工のヨセフと妻のマリヤ、そして幼いイエスという家族の日常を描く。ヨセフは軛を作りながら子をあやし、夕暮れ時には家族で水汲場へ出かけて隣人と交流する。夫婦は日々の労働と神への信仰を大切にしながら慎ましく生活を送る。ある夜、旅人の若者が家を訪ね、夫婦は温かく迎え入れる。若者はそこで家族の絆と幼子の不思議な光に触れ、彼らの慈しみ深い日常の営みを通じて心の安らぎを見いだしていく。

小山清

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🎧 聖家族 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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ヨセフは牛の頸に繋ぐ軛をこしらえていた。すると、傍の寝床の中で眠っていた息子のイエスが目をさまして、泣声をたてた。この寝床は、イエスがベツレヘムの馬小屋で生れたときに寝床の代りをした馬槽に模って、ヨセフがこしらえたものであった。ヨセフは手にしていた鋸を置いて、寝床のうえに屈んで、息子の顔を覗いた。イエスは父親の顔を認めて、泣きやんだ。ヨセフがあやすと、イエスは可愛い靨を顔に刻んで笑った。口もとが綻んで、もはや充分に発育した二本の可愛い下歯が見えた。ヨセフはイエスの目の中を覗き込んだ。イエスの目の中にヨセフの髯づらが小さく小さく縮小されて映っている。ヨセフにはそれがなにかの奇蹟を見るような気がした。ヨセフは自分の息子の目の中の自分の髯づらに挨拶するようにうなずいた。イエスは頻りに顔を動かし、寝床から躯を乗出すようにしたが、ふとまたべそを掻いた。母親を尋ねているのである。ヨセフが指で頬をなでると、瞬間機嫌を直したが、またすぐ泣顔になった。ヨセフは腕にイエスを抱きとって、その頬に接吻した。それはわが子を抱いたときに、いつも彼を襲う衝動であった。イエスは口をきつく結んで、強く首をふって、父親の愛撫にいやいやをした。頬に押しつけられたヨセフの髯が痛かったからである。

「坊や。外へ行こうね。」

ヨセフはイエスを抱いて門口を出た。満八ヶ月になるイエスの躯は重く抱きごたえがあった。ヨセフはそのわが子の躯を、その勤勉な性質を語り顔な大きな節榑立った掌に受けた。ふだんイエスは外に出ることが好きだった。おなかが空いてむずかっているようなときでも、外に連出すとすぐに機嫌をよくした。

戸外は夏の夕ぐれであった。ここガリラヤのナザレの町は、いくつかの小高い丘にとりまかれた平和な谷間にある。聖書に「なんじの頭はカルメルのごとく」と女の頭髪をほめる譬に引かれたカルメルの山の濃緑に蔽われた美しい山容も、彼方に見える。いま夕陽はその山の背に沈みかけ、家々にはちらりほらりと灯火が点きはじめた。

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