TRENDIA CLASSIC

前途なお

小山清

1 / 18

金沢イエは私の父の浄瑠璃の弟子である。短い間であったが内弟子に来ていたこともあった。私は小学校の五年生位だった。イエはそのとき十五位だったろう。あれは稚児輪というのだろう、絵に見る牛若丸のような形の髪に結っていた。またそれがよく映った。色白で眼の涼しいイエは子供の聯想で牛若丸のように私の眼に映った。イエがその日から家に来るという日、学校から帰るとすぐ私はイエの姿を求め、台所で用をしていた母に、「イエちゃん来た?」と問いかけ、用をしていて母が咄嗟に口のきけなかった、返事を渋った短い間を、私は頬のあからむ思いをした。

私は寝起きがよくなかった。朝寝床の中でぐずぐずしていると、よく采配と箒を持ったイエが起しに来た。私はわざとぐずついて「おめざは?」そんなことを云ってイエを困らせた。

「清さんが起きないと、お掃除が出来ません。」

「なんだい、まだ早いじゃないか。じゃ、もう十分……八分、五分。」

イエは困ったように笑いながら、

「いけません。兄さんはとっくに起きていますよ。」

私はずるくイエの顔を窺って、

「それじゃあ、竹の子剥ぎをして。」とわざと大きい声をした。

イエは睨むように私の顔を見て一瞬黙ってしまった。いつかやはりイエが私を起しにきて、私がいつまでも起きないので、「じゃ、竹の子剥ぎをしますよ。」心得顔でそんなことを云って、私が寝ているまま上から蒲団を一枚ずつ畳んではそれを押入へ仕舞った。小柄なイエは蒲団を押入へ仕舞い込むのにひどく持て余し骨を折った。私は寝たままそれを、その立膝をした後姿を見ていた。紅い根掛の眼に沁みる小さい髪の動くのを見ながら、私はうっとりとした気持を味わった、――イエはあの時気づいたのだ、私が見ているのを。

小山清の他の作品