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TORENDIA

小品四つ

本文約3,000字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

秋の夜に美しい人と秋草を分かち合う思い出や、今はいない妹が遺した手細工のガラス小箱とそこに収められた美しい貝殻、共に海岸で過ごした夏の日に折った折紙の記憶、そして葦辺踊りの華やかな光景と、その際に手に入れた菓子皿や写真などの品々を綴る。中勘助が過ぎ去った日々への慈しみと愛惜を込め、身の回りのささやかな遺物や記憶の断片を手繰り寄せながら、日常の情景の中に宿る美しさや切なさを静かに回想する連作随筆である。

中勘助

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🎧 小品四つ / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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秋草

これはもうひと昔もまえの秋のひと夜の思い出である。さっさっと風がたって星が燈し火のように瞬く夜であった。身も世もないほど力を落して帰ろうとするのを美しい人が呼びとめて

「花をきってさしあげましょう」

といいながら花鋏と手燭をもっておりてきた。そして泳ぐような手つきで繁りあった秋草をかきわけ、しろじろとみえる頸筋や手くびのあたりに蝗みたいに飛びつく夜露、またほかげにきろきろと光る蜘蛛の巣をよけて右に左に身を靡かせつつひと足ぬきに植込みのなかへはいってゆくのを、かわってもった手燭をさしだして足もとを照しながらかたみに繁みのなかへ溶けてゆく白い踵の跡をふんでゆけば、虫の音ははたと鳴きやみ、草の茎ははねかえってきてちかと人を打つ。咲きみだれた秋草の波になかば沈んだ丈高い姿ははるかな星の光とほのめくともし火の影に照されて竜女のごとくにみえる。おりおり空から風が吹きおちて火をけそうとすると

「あら」

と大きな目がふりかえってひとしきり鋏の音がやむ。驚かされた蛾は手燭のまわりをきりきりとまわって長い眉をひそめさせる。そんなにして無言のままに紫苑や、虎の尾や、女道花や、みだれさいた秋草の花から花へと歩みをうつしてゆくのを、私は胸いっぱいになって、すべての星宿が天の東からでて西にめぐるよりも貴いことに眺めていた。ここにあるいくすじの細いリボンの、白と、黄と、淡紅と、ところどころに青いしみのあるのはそのおりおりにきって束ねてもらった草の汁である。さりながら私はこのうちのどれがその夜のものであったかをおぼえていない。

小箱

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