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TORENDIA

島守

本文約18,000字 ・ 読了時間 約36分

あらすじ(AIが作成しました)

山国の湖に浮かぶ小島に身を寄せた語り手は、都会の喧騒と人間関係から離れ、動植物や自然と友となりながら独り静かな生活を送る。折しも妹の危篤を知り悲しみに暮れるが、島の日常を日記に綴り、鳥や風の音を聞きながら精神的な安息を求める。ある日訪れた老人との対話を経て、語り手は季節の移ろいとともにこの島での隠遁生活を終え、紅葉に染まる島を後にするまでを描く。

中勘助

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これは芙蓉の花の形をしてるという湖のそのひとつの花びらのなかにある住む人もない小島である。この山国の湖には夏がすぎてからはほとんど日として嵐の吹かぬことがない。そうしてすこしの遮るものもない島はそのうえに鬱蒼と生い繁った大木、それらの根に培うべく湖のなかに蟠ったこの島さえがよくも根こぎにされないと思うほど無惨に風にもまれる。ただ思うさま吹きつくした南風が北にかわる境めに崖を駈けおりて水を汲んでくるほどのあいだそれまでの騒しさにひきかえて落葉松のしんを噛む蠧の音もきこえるばかり静な無風の状態がつづく。

この島守の無事であることを湖の彼方の人びとにつげるものはおりおり食物を運んでくれる「本陣」のほかには毎夜ともす燈明の光と風の誘ってゆく歌の声ばかりである。この人は昔村が街道筋にあたって繁昌した頃の御本陣のあととりだが、時勢の変遷や度かさなる村の災厄のため落魄して今はここでも小さいほうの数に入る一軒の家のあるじにすぎないけれど通り名だけはもとのまま「本陣」と呼ばれている。本陣は村じゅうでいちばん人がいいといわれるとおりおそらく国じゅうでも最も善良な人のひとりであろう。その善良朴直のゆえに私は心からこの人を愛する。性来、特に現在甚だ人間嫌いになった私にとってもこの人が島へくることは一尾の鱒が游いできたような喜びを与える。――追記。その後いちど逢ってしみじみ昔話でもしたいと思いつつおりを得ずに幾十年かたつうちに本陣は亡くなった。残念なことをした。家も新築されてあとが栄えてると人づてにきいて喜んでたのだったが。

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