本文へ移動
TORENDIA

自責

本文約4,800字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

元検事のドルーは、自身の法廷での雄弁により死刑判決を下した男が、実は無実であったという確信に苦しみ続けていた。過ちを償うべく私財を投じて救済活動に身を捧げてきた老人は、死期を悟り、検事であったジェルヌーを呼び出す。法廷のあり方と誤審の恐ろしさを後世に伝えるため、かつて自らが断罪した男の名前を冠した施しを託そうとするドルーに対し、ジェルヌーは当時の事件の真相に関わる意外な事実を告げる。

モーリス・ルヴェル Maurice Level

速度
🎧 自責 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 6

扉が開いたけれど、私は廊下に立ちどまってもじもじしていると、

「此室でございます」

私を迎えに来て其家まで案内してくれた婆さんが、こういって再び促したので、私は思いきって入って行った。

室内はいやにうす暗くて、初めは低い蓋をかぶせたランプの外何も見えなかったが、だんだん眼が慣れて来るにしたがって、一箇の人影がぼんやりと壁にうつっているのを認めた。その影はじっとして動かなかった。何しろ痛ましく痩せおとろえて、殆んど骨と皮ばかりになって、顔なども尖々しく見えた。

石油の臭いとエーテルらしい臭いが私の鼻をついた。しんとした死の国のような静寂の中で、屋根のスレートを叩いている雨と、煙突に風のうなる音が聞えるだけであった。

「先生」

婆さんは寝台へ屈みこむようにして静かに声をかけたが、そのときに寝台がやっと私の眼にも見えて来たのであった。

「先生、貴方が会いたいと仰しゃったお方をお伴れしました」

すると影の主はあわてて半身起きあがって、

「ありがとう、マダム。もういいです、帰って下さい」

かすかな声である。

やがて、婆さんが扉を締めて出て行ったのを聞きすましてから、その声が改めて私に挨拶をした。

「こっちへお寄り下さい、貴方、私は眼が霞んで物の見分けもつかぬ上に、耳鳴りがしてお話もよく聞き取れません。どうぞ、ずっと傍へいらして下さい、そこに椅子がありましょう。お呼び立てして大変失礼でしたが、実は、是非貴方にお話ししなければならぬことがありますので」

彼は私の方へ顔をさしのべて眼をぎろりと見張った。そして震えながら覚束ない声で、

「貴方はジェルヌーさんですね。検事のジェルヌーさんでしょう」

と念をおした。

「そうです」

私が肯ずくと、安心したようにほっと溜息をして、

「これで、私もいよいよ告白が出来ることになりました」

とその年老いた病人は語りだした。

「先刻あげた手紙にはプリエと署名しましたが、あれは私の本名ではありません。御覧のとおり、私はもう死神に取憑かれているので、人相も変ってしまったでしょうが、幾らか昔の面影が残っているなら、おぼろげにも見覚えがおありでしょう。然しそれはまア何うでもいいです。

モーリス・ルヴェル Maurice Levelの他の作品

🎧
父
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約13分
🎧
蕩児ミロン
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約15分
🎧
生さぬ児
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約15分
🎧
二人の母親
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約9分
🎧
見開いた眼
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約10分
🎧
麦畑
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約10分
🎧
闇と寂寞
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約11分
🎧
老嬢と猫
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約18分
🎧
ピストルの蠱惑
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約11分
🎧
フェリシテ
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約11分
ラ・ベル・フィユ号の奇妙な航海
モーリス・ルヴェル Maurice Level
🎧
麻酔剤
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約12分

同じジャンルの朗読つきの本