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ラヴノオは、同じ銀行に十年間も集金掛を勤めていて、模範行員と呼ばれた男であった。塵ほどの失策もなければ、只の一度だって間違った帳記けを発見されたこともなかった。

係累のない独り者で、やたらに友達をつくりもしなければ、カッフェなんかに出入りするという噂も聞かぬ。それに色恋の沙汰もなく、只もう満足してその分を守っているようであった。

「そんなに大金を扱っていると、さぞ誘惑を感じるでしょうね」

人がそんなことを訊くと、

「なアに、自分の所有でないから金だと思いやしません」

と彼は落ちついて答えるのであった。

近隣の人達も彼は確かな男だというので、何かの時には意見を求めたり、口をきいてもらったりするくらいだった。

ところが、彼は或る集金日に出て行ったまま、夜になっても帰って来ない。誰もこの男に不正があろうとは思わないが、ひょっとすると、悪漢の手にかかったのではないかと心配しだした。警察の方で、その日彼が立ち廻った先を調べてみると、一々几帳面に手形を出してはその金額を受取り、最後にモンルージュ門附近の取引銀行へ廻ったのが晩の七時頃で、そのときは、二十万フラン以上の金が財布に入っていたということがわかった。

さて、それから何うなったか行き方が知れない。城壁附近の空地や、その辺に散在している小舎、物置などを隈なく捜したけれど無効であった。なお念のために、各地方や国境の各駅へも電報を打った。

が、銀行の重役だの警察側の見当では、賊が金を奪った上に彼を殺害して、屍体を大河へ投げ棄てたものと見た。若干の確かな手がかりもあった。それによれば、常習的強盗団が前々から企らんでやった仕事ということは、殆んど疑う余地がなかった。

この事件は、翌くる日になって、巴里の各新聞を賑わした。ところが、その記事を読んで『どんなもんだい』と肩を聳やかしたのは、当のラヴノオであった。

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