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TORENDIA

青蠅

本文約3,100字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

死んだ女の傍らに立つブルダンは、殺人の容疑をかけられ審問を受ける。彼は被害者を知らないと主張し、判事が突きつける凶器や証拠を強固に否定する。法医学鑑定に基づき指の形を照合するよう迫られた彼は、ためらいながらも屍体の首に手をかける。その瞬間、開いた女の口から一匹の青蠅が飛び出し、執拗に彼の唇に取り付く。あまりの恐怖と重圧に、男はついに犯行を自白する。過酷な取調べの中で隠されていた真実が、不気味な生物を介して露呈する物語。

モーリス・ルヴェル Maurice Level

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🎧 青蠅 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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男は、死んだ女のそばに突立って、平然とその屍体を見まもった。

彼は眼を細めにあけて、大理石の石板に横えられた女の白い体と、胸の只中をナイフで無残に刳られた赤い創口とを見た。

屍体はすでに硬直しているにも拘らず、完全な肉附の美くしさは、まるで生きている人のようだ。ただその余りに蒼白くなった手の皮膚や、紫色に変色した爪や、かっと見ひらいた両眼、気味わるく歯を露わしている黯ずんだ唇――それ等のものが永久の眠りを語っているのだ。

石で床を鋪きつめたその不気味な広い室は、息窒まるような沈黙で圧つけられていた。屍体の傍には、今までそれを包んでいたらしい、血痕の附着した敷布があった。臨検の役人たちはそのとき一斉に、被疑者であるその男の方へ眼をつけたが、男は二人の看守に護られながら、しゃんと顔を擡げ、背ろへ両手を廻わして、相変らず傲然と突立っているのであった。

やがて判事が審問をはじめた。

「これ、ブルダン、お前は自分で殺したこの被害者を見知っているだろうな」

男ははじめて判事の方へ顔を向け、一生懸命に記憶を喚び起そうとして、死人の上に注意をあつめているらしい風であったが、

「まるっきり知らない女です。見かけたこともありません」

と落ちついた声で彼は答えた。

「しかし、お前がこの女の情夫であったということを、大勢の証人が申立てているではないか」

「証人の申立はみな違っています。まったく知らない女です」

「ようく考えてから答えるがいい」判事はちょっと沈黙したあとでいった。「われわれを誤魔化そうたって、そうは行かんぞ。今日の審問はほんの形式上のもので、これでお前の裁判が決定するというわけではない。お前は立派に教育のある男だ。寛大な判決を下して欲しいと思うなら、ここで自白する方が、お前の利益にいいだろうがなア」

「身に覚えのないことは、自白の仕様がありません」

「もう一度注意するが、強情を張ると利益にならんぞ。多分激昂して発作的に殺したんだろう。この屍体を御覧。この惨たらしい死態を見て気の毒とは思わんか。後悔もしないか」

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