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TORENDIA

十勝の朝

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

十勝岳の中腹にあるヒュッテで過ごした二冬の滞在体験を綴る。雪の研究を目的に訪れた山中で、管理人である老人夫婦との親密な交流や、零下二十度の寒さの中で迎える静かな朝の情景を描く。薄暗い二階の寝室で聴く下の部屋の生活音、次第に暖かくなる空気、そして窓の外に広がる新雪と朝陽が織りなす極上の冬の風景を詳述する。雪山の厳しい環境下における、人間味あふれる暮らしと自然の美しさを回想する随筆である。

中谷宇吉郎

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🎧 十勝の朝 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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機会があったら今一度行ってみたいと思うものは、十勝岳の真冬の景色である。もう五年も前の話になるが、雪の研究のためと言って、二冬続けて、五度ばかりも十勝岳へ行ったことがある。

十勝岳といっても、落着く先は、いつも中腹千メートルあまりの高さの所にあるヒュッテであった。そのヒュッテは、本当は森林管視人の住い家であって、その頃はO老人夫婦が棲んでいた。O老人はその生涯を北海道の雪の山中で過した変り者で、雪の研究などというと、誰よりも喜んで、いつも親切に世話をしてくれるのであった。そして、ここでやった雪の研究もずいぶん面白かったが、それにも劣らぬくらい、このヒュッテの中の生活が、今では楽しい思い出となって残っている。

雪の深山の晴れた朝くらい美しいものも少ないだろう。このヒュッテは二階建になっていて、下には大きいストーブが据えつけられ、二階が寝室になっていた。そして寝る前にO老人がストーブに一杯丸太を詰めこんでおいてくれるので、二階の寝室はちょうど良い暖かさになっている。それでも暁け方目を覚ますと、窓の外の零下二十度に近い寒さが、ひしひしと肩のあたりにしのび寄ってくるのが感ぜられる。外はまだ真暗で、何の声もない。妙に澄み切った静けさである。暖い毛布の中にもぐり込んで、人界を遠く離れた真冬の十勝岳を窓の外に感じながら、うつらうつらしていると、やがて下の部屋でO老人のガタンガタンと丸太をころがす音が聞えてくる。ストーブに火がはいったと見えて、下の部屋が何となく賑かになってくる。煙突へ逃げる焔の音らしい低い連続した響きの中に、パチパチと丸太のはねる音が雑って聞える。そのうちに勝手もとではO老人の細君が起き出したらしく、水を流すような音がしたり、時々器物のふれ合う鋭い小さい音が雑ってきたりする。覚め切らぬ頭の中に、これらの人間的な雑音の誕生と発展とが、妙な夢を齎してくる。譬えようもないが、何か海底の噴火でできた大海の中の孤島に、いろいろの植物や動物が流れ寄って、そこで新しい生命の生長が始まって行くようなとりとめもない夢である。

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