永久に不愉快な二重生活
本文約550字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
芸術家としての生と社会的な職業生活の間に横たわる矛盾を綴る。人間生活の全容は本来一つであるはずが、芸術活動と職業の狭間で二重生活という不都合な問題が生じる。英語教師という現実の職業に従事する著者は、精神と生活の調和を欠いた不愉快な状況が、現代日本の物質的制約下では解決し得ないものとして、逃れられない生存の条件であることを論じる。
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中村さん。
問題が大きいので、ちよいと手軽に考をまとめられませんが、ざつと思ふ所を云へばかうです。
元来芸術の内容となるものは、人としての我々の生活全容に外ならないのだから、二重生活と云ふ事は、第一義的にはある筈がないと考へます。
が、それが第二義的な意味になると、いろいろむづかしい問題が起つて来る。生活を芸術化するとか、或は逆に芸術を生活化するとか云ふ事も、そこから起つて来るのでせう。
あなたの手紙にあつた芸術家の職業問題などは、それを更に一歩皮相な方面へ移して来ての問題だと思ひます。
だから「物心両面に於ける人としての生活と、芸術家としての生活の関係交渉」と云つても、それぞれの意義に相当な立場をきめてかからないと、折角の議論は混乱するより外にありますまい。
所で私は前にも云つたやうに、今さう云ふ問題を辯じてゐる暇がない。
が、強ひて何か云はなければならないとなると、職業として私は英語を教へてゐるから、そこに起る二重生活が不愉快で、しかもその不愉快を超越するのは全然物質的の問題だが、生憎それが現代の日本では当分解決されさうもない以上、永久に我々はこの不愉快な生存を続けて行く外はないと云ふ位な、甚平凡な事になつてしまひます。
これでよかつたら、どうか諸家の解答の中へ加へて下さい。以上。
(大正七年十月)
完